正岡子規の子孫は作庭家だった。子規が詠んだ柿の木を中心に、奈良の世界遺産・東大寺、若草山を背後にのぞむ庭園。
天平倶楽部“子規の庭”について
「子規の庭」(しきのにわ)は日本料理店『天平倶楽部』内にある、奈良の世界遺産・東大寺大仏殿や若草山を背後にのぞむ池泉回遊式庭園。俳人・正岡子規が明治28年に奈良旅行に訪れた際に宿泊した老舗旅館「對山樓」の跡地に、子規の子孫で造園家の正岡明さんらにより2006年(平成18年)に作庭。
天平倶楽部の営業時間とは別で10〜16時のあいだ入園することができます(もちろんレストラン内からも眺めることができます)。
Googleマップで奈良の地図を眺めてたらその存在に気づき、2020年秋に初めて訪れました。他の庭園との距離で言うと国指定名勝『依水園』からは北へ徒歩10分ほど。
現在「天平倶楽部」のある場所には江戸時代末期〜大正時代にかけて奈良を代表する旅館だった『對山樓・角定』がありました。近代には政府要人や文人墨客が数多く宿泊、正岡子規もその一人。對山樓で4泊し奈良旅行を楽しんだ子規はこの旅中に有名な《柿食えば 鐘が鳴るなり 法隆寺》を詠みました。
そしてもう一つ残した奈良と柿にまつわる句が《秋暮るゝ 奈良の旅籠や 柿の味》。對山樓で食した柿について詠んだこの句。平成3年(1991年)に開店した天平倶楽部の敷地内の樹齢100年を超える柿の古木が、子規が詠んだ柿の木だとわかったことから、子規ゆかりの地として顕彰するべく『子規の庭』が作庭されました。
「子規の庭」公式サイトでは、子規の子孫(子規の妹のお孫さん)であり作庭を手掛けた『正岡庭園設計』正岡明さんによる解説文が掲載されています。デザインコンセプトは、23歳の子規が描いた「書斎及び庭園設計」の、
秋の野草を植え皆野性の有様にて乱れたるを最上とする
すべて日本風の雅趣を存すべし
…に基づいたもの。東京の『子規庵』の庭園もこの一言を見た後に見直すとまた新たな紐解き方ができる、かも。
レストラン内から見られる池泉は石組が目立つけれど、お庭を歩くと植物が主体の庭園ということが体感できます。今回訪れた時期はモミジやドウダンツツジの紅葉にツワブキ、サザンカの花が楽めた。春にはツツジ・サツキの刈り込みがカラフルに咲き誇るんだろう。
庭園の最上段には、東大寺大仏殿と若草山・春日山を借景に、正岡子規の句碑が残ります。使われている緑泥片岩は子規の出身地・愛媛の西条市で産出された伊予青石。
なお對山樓が廃業したのは昭和38年。奈良県立図書館情報館のウェブサイトにかつての建物・庭園の写真が残っています。どんな素晴らしい古建築・古庭園でも、後世の残されるかどうかは色んな要因…それを雑に一言で言ってしまえば“運”なのかもなあ。
(2020年11月訪問。以下の情報は訪問時の情報です。最新の情報は各種公式サイトをご確認ください。)
アクセス・住所 / Locations
近鉄奈良線 近鉄奈良駅より徒歩15分
JR奈良線・大和路線 奈良駅より徒歩30分
※いずれも駅周辺にレンタサイクルあり
奈良駅・近鉄奈良駅より路線バス「今小路」バス停下車 徒歩2分
〒630-8207 奈良県奈良市今小路町45 MAP