2020年には日本初の庭石博物館として登録。2つの池泉回遊式庭園に日本全国から集められた銘石・巨石・奇石が並ぶ、”平成・令和の大名庭園”。
21世紀の日本庭園 仙石庭園について
「仙石庭園」(せんせきていえん)は2017年に東広島市に開園した約7000坪という広大な日本庭園(*その後12,000坪に拡張)――という普通の書き出しではこの庭園のすごさは伝わらない。ここはマジでヤバイのでみんな行って欲しい(小並感)。“現代の大名庭園”のコンセプトに恥じない、正にその言葉が似あう庭園!
今年一番写真を選ぶのが難しかった(なので写真点数が多いです)、またどの写真を冒頭に持ってきたらこの庭園に興味を持ってもらえるかとても悩んだ。この滝の写真ではこの庭園の広大さが伝わらないのだけど、見て欲しいのは滝の周辺に組まれた“石”である、と言うのは先に書いておきたい。
2019年11月に重森三玲さん作庭の国登録名勝『前垣氏庭園』の特別公開へ。初めて西条の街へ行ったのですが、その西条から約7㎞、西条駅またはお隣・西高屋駅から地域の路線バスに乗って辿り着くのが仙石庭園。東広島へ行くなら合わせて行きたいと思っていた場所でした。
前情報として“新しい本格的日本庭園”“大きな滝がある”という印象はあったんですが、いや。この庭園の見どころはなんと言っても“石”だ。石が好きな人が行ったらめちゃくちゃ楽しいはずだし、現在“石”に興味がない人も「なんか変わった石が沢山ある…」とその魅力に取りつかれる、そんなきっかけになるかもしれない。
訪れた時にはドウダンツツジや紅葉や苔もきれいだったし、春には様々な種類が桜も見られるようですが!でもやっぱこの庭園は石だ。運営者も『一般社団法人 日本石庭文化保存協会』。そんな組織あったのか…(補足は後述)。入場口にある《今日は雨だ 仙石庭園に行こう 雨に打たれると石は美しい》のキャッチフレーズもとても良い。
広大な庭園内に“仙石湖”を中心とした大名庭園風のエリア『上段の庭』と、“ワニ池”を中心とし冒頭の15メートルの滝“仙神大滝”がそびえる自然風の『下段の庭』と2つの池泉回遊式庭園があり、そしてそれらを結ぶ通路には日本全国各地から集められた銘石・巨石・奇石が並ぶ。
青石、赤石、紫雲石…現代においてこれ運んでくるのに一体どれだけお金かかったんだろ(下世話)。言い換えると、現代の運搬技術があるからこそこれだけの銘石をこの地に集められた。
銘石の種類を挙げればキリがない。伊予の赤石・青石、高知の赤石・青石、高知県仁淀川の赤石・珊瑚石、長野の亀甲石、富士山火口石、砂谷石、宮崎・椎葉の紫雲石、群馬・三波四十八石、北海道・日高の赤石、京都の紅加茂石…などなどナンバリングされている石が100近くある。歴史的なもので言うと江戸・寛永寺の石灯籠も。総重量3,000トン!
この庭園の最もユニークな点は、現代において“100%オーナーの趣味”でここまでの大規模庭園が造られていること。オーナーであり作庭者である山名征三さんは現在80歳、本業は医者。
公式サイトのご本人のメッセージはこちら。こんな風に『オーナー兼作庭者』が語られてることってそう無いと思うので超面白いです。
概要とお聞きした話を書くと――約20年前、店じまいする造園会社から大量の庭石を格安で譲り受けたことをきっかけに“庭石”の魅力にハマったそう。
その後、全国各地から気に入った石を買い集め、“そのための庭園”として私財を投じて庭園の造成に着手。地方の大きくて新しい庭園って自治体とかが作ることはあるけど、まさか完全に個人によって作られていたとは…。
それも“有力な造園会社に頼んだ”のではない。自費でクレーン車を買い、日本庭園の歴史・種類もその時期から勉強し始め、庭園の造営は自らの指示ですべて行った。なので図面も残っていないとか。
たとえば順路の最後の富士山のような築山は『水前寺成趣園』を思い出すし、砂の通路も鹿児島の『仙厳園』の風景を思い出すし――他の歴史的大名庭園から影響を受けた部分は当然あるだろうし(なお公式に影響を受けたと書かれているのは東京の『清澄庭園』)、プロが見たら一つ一つは稚拙な部分もあるかもしれないけど、そんなパワフルな方が令和のこの時代にも居たのか…!ということにめちゃくちゃ感動した。最強のアマチュアな庭園。
造成が始まってこの庭園が現在の姿になるまで約15年。実はまだ完成していない。岡山県のある場所で惚れた亀石(巨石)を数年越しで手に入れられたそうで、そのために来年には更に庭園を拡張するそう。80歳になっても庭にこれだけのエネルギーを注ぐ姿、本当にかっこいいしファンキーな方だ。
また山荘風の休憩施設でもある“神石殿”の中で柱として使われているご神木の神々しさ。更には数々の盆石や珍しい石が。これまた「こんな石あるのか…!」と面白いものばかりで。
ボランティアの方(=実は大学教授…!)に話を聞いていたらちょうどオーナーの山名さんがお越しになられたので、自分もお話しをさせていただいた。“庭づくり”や“石”へのこだわりの話は勿論、現在も広島市のシェラトンホテルから週1便のみ直通バスがあるけど、来場者を増やすために色々考えられているそうで――「SNSを使ってでもみんなに知ってほしい…」と感覚もまだまだ若く(笑)、本当に刺激的な時間だった。ちなみに「日本石庭文化保存協会」という組織も山名さん自身が立ち上げられたもの。
今年、石川県の『苔の里』でも“オススメ度☆6をつけたい”(今は☆5までしかつけてない)と思ったのですが、この庭園もその一つで――なぜそう思うのかというと、庭園の技術的な面よりも、『その人の想い、その街の想い』が庭園から透けてみえるからだ。
自分はそういうエモいのに弱いというか、それこそが重要だと思っていたりする。(その点、古庭園でも新潟の『貞観園』なんかもそう)
仙石庭園の場合は、近代まであった『実力者が文化・芸術に対してカッコいいお金を使い方をしている』姿が現代でも見られるという点でもすごく良いし、地域の方々とのお話でも「定年後の自分がこの庭園を育てていくことが楽しみ」という想いを持たれていたのがとても魅力的だった。
また別の季節に訪れたいし、本当にここは行ってほしい!
(2019年11月訪問。以下の情報は訪問時の情報です。最新の情報は各種公式サイトをご確認ください。)
アクセス・住所 / Locations
JR山陽本線 西高屋駅より約3km(徒歩40分)
西条駅・西高屋駅より路線バス『高美が丘七丁目』バス停下車 徒歩12分
〒739-2111 広島県東広島市高屋町高屋堀1500 MAP