成城五丁目猪股庭園

Seijo 5 Chome Inomata Garden, Setagaya-ku, Tokyo

東京の隠れた名建築と庭園…昭和の巨匠・吉田五十八のスタイルを満喫できる近代数寄屋建築と、京都・銀閣寺の御用達庭師・田中泰阿弥も作庭に関与した苔庭。

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旧猪股邸/成城五丁目猪股庭園について

「成城五丁目猪股庭園」(せいじょうごちょうめいのまたていえん)は東京の高級住宅街の一つ・成城エリアにある世田谷区立の庭園。京都の世界遺産『銀閣寺』の御用達庭師だった田中泰阿弥が作庭に関わった庭園と、昭和の有名建築家で“近代数寄屋建築の巨匠”吉田五十八の設計による近代数寄屋作りの邸宅が見られます。
2022年5月に約5年ぶりに訪れたので、その際の写真を追加して紹介。

施設名に「庭園」と付くけれど、東京の中でも(都立庭園と比べると)知名度は決して高くない旧猪股邸の庭園。都心の“大名庭園”と比べると決して規模は多くありませんが、名建築家と名庭師がタッグを組んだ昭和の邸宅は、まさに“庭屋一如”(ていおくいちにょ)の言葉がピッタリの空間。

1967年(昭和42年)、一般財団法人労務行政研究所の初代理事長をつとめた猪股猛氏ご夫妻の邸宅として建てられたこの邸宅。施設名の通り「庭園」も良いのですが、訪れて感動したのは「建築」。2つの茶室を備えた木造平屋建の設計を手掛けたのは吉田五十八。
“近代数寄屋建築”のスタイルを確立した昭和の戦後の代表的な建築家のひとりですが、大型な“モダニズム建築”を多く手掛けている建築家と比べてその作品の知名度は決して高くない(『成田山新勝寺』の本堂や『大和文華館』などの大型建築を手掛けられてはいるけれど)。

大型建築よりも画家・芸術家・その時代の総理大臣など政治家の邸宅といった著名人の個人邸を多く手掛けた吉田五十八の、公開されている貴重な個人邸の一つが猪股邸。この邸宅を「貴重な文化財として末長く残したい」という想いから猪股家より世田谷区に寄贈され、1999年(平成11年)より一般公開がはじまりました。

建築の技術面での魅力的な所もきっとたくさんあると思うのだけれど、お庭目線でこの旧猪股邸の素晴らしい点は“庭園の景色の切り取り方”“お庭との一体感”…。
庭園の景色が飛び込んでくるようなリビングの広い窓。ちらりと見える松明垣。リビング・食堂と一体化した坪庭。洋が入り込んだモダンなリビングと坪庭を隔てるのは数寄屋風で障子戸。そしてやはり窓が大きく取られ開放的で、和風のお庭の眺めと洋風なインテリアが驚くほど溶け込む夫人室や書斎…。吉田五十八ほど“お庭との一体感”を体現している建築家は居ないのでは——この場所を見てすっかり吉田五十八の虜に。

庭園も植栽とカーブのある飛び石が楽しい前庭のアプローチからはじまり、ふたつの中庭、茶室周辺の露地庭(茶庭)、そしてアカマツを中心に置いた主庭園は東京の邸宅にもこんな苔庭が成立するのか…!と驚く杉苔を主体とした庭園。庭園奥には紅葉や梅の木などもあり、四季の風景を楽しむことができます。
庭園作庭に関与したと名前が挙がるのは京都の世界遺産『銀閣寺』の出入庭師で、地元・新潟を中心に国指定文化財庭園の修復等にも数多く関わっている“庭匠”田中泰阿弥で、氏が関東に残した庭園としても貴重な場所。池泉回遊式ではなく、紅葉と苔が主体の“青緑”の映える回遊式庭園は“東京らしくない”庭園でもあるし、庭側から見て平屋建の邸宅の“圧迫感のなさ”がまた空間の一体ぶりを感じて◎。

建築も庭園も昭和中期と割と現代の作品なので、現段階では文化財指定もなく、地味な存在かもしれないけれど——個人の邸宅・庭園として隠れた名作だと思うのです。この美しい空間が維持され続けますように!
そして世田谷区は『五島美術館』『満願寺』など吉田五十八の建築が集中的に残されているエリアでもあります。ぜひ“日本らしさ”と“現代”の間に生まれた近代数寄屋建築の美を味わって。

(2017年11月、2022年5月訪問。以下の情報は訪問時の情報です。最新の情報は各種公式サイトをご確認ください。)

アクセス・住所 / Locations

小田急小田原線 成城学園前駅より徒歩7分

〒157-0066 東京都世田谷区成城5丁目12-19 MAP

投稿者プロフィール

イトウマサトシ
イトウマサトシ
Instagram約9万フォロワーの日本庭園メディア『おにわさん』中の人。これまで足を運んで紹介した庭園の数は2,000以上。執筆・お仕事のご依頼も受け付けています!ご連絡はSNSのDMよりお願いいたします。
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