名護屋城 茶苑「海月」

Nagoya Castle Tea Garden "Kaigetsu", Karatsu, Saga

豊臣秀吉が築いた巨大な城郭“名護屋城”(国の特別史跡)。その一角にモダニズム建築の巨匠・吉村順三が最晩年に設計した現代数寄屋建築/茶室と日本庭園。

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名護屋城 茶苑「海月」について

「名護屋城」は(なごやじょう)は桃山時代に豊臣秀吉が朝鮮出兵の出兵拠点として築城された城郭。「名護屋城跡並びに陣跡」として“ランドスケープの国宝”国の特別史跡や日本100名城に選定されています。また城内には昭和を代表する建築家のひとり・吉村順三が設計した和風建築・茶室『茶苑 海月』(ちゃえん かいげつ)と日本庭園があります。

佐賀の吉村順三建築…というと嬉野温泉『大正屋』が有名なのですが、唐津市にも氏の建築があると知り…しかもまだ訪れた事がなかった特別史跡・名護屋城内に!2025年、久々に唐津を訪れました。

その歴史について。天下統一を果たした豊臣秀吉が晩年に計画・実行した大陸への進出(文禄・慶長の役、通称「朝鮮出兵」)。その拠点として1591年(天正19年)より急ピッチで築城された名護屋城。最盛期には国内で『大坂城』に次ぐ規模を誇った巨大なお城で、その周囲にも全国から集結した大名たちによる100以上の陣屋や城下町も整えられました。
しかしそんな名城も秀吉が亡くなり出兵を終えた1598年をもって廃城と短命に終わります。当時の建物は一切残らないものの(一部の建築は『唐津城』等に移されたそう)、広大な範囲に残る石垣がその様子を伝えます。

その様に「戦場に赴く拠点」としての性格が強い名護屋城ですが、そこは茶の湯好きだった秀吉。名護屋城内にもいくつもの茶室が設けられ、大名らを交えて《連日連夜、絢爛なる茶会が繰り広げられた》と伝わるそう。有名な「黄金の茶室」は京都や大坂城を経てこの名護屋城にも移設。
また秀吉の居館のあった名護屋城跡山里丸からは発掘調査により茶室の遺構が発掘され、その遺構や狩野光信の描いた『肥前名護屋城図屏風』の様子、茶会に招かれた博多の豪商・神屋宗湛の日記を下に「草庵茶室」が復元、博物館内で公開されています。

そんな《茶会が繰り広げられた》歴史も踏まえながら、1994年(平成6年)に城跡の一角、弾正丸(五奉行筆頭・浅野長政の居住地)の南側に開館したのが茶苑「海月」。約2,500平方メートルの中に広間・立礼席を備えた茶屋棟と離れの茶室、待合、そしてその前に広がる(名護屋城の石垣を借景とした)日本庭園から構成されます。設計は昭和の巨匠・吉村順三で、1997年に亡くなられた氏の最晩年の作品の一つ。
尚、入館のみ(210円)と呈茶つき(600円)とありますが、呈茶はご当地「唐津焼」のお茶碗でいただけるので呈茶付きがオススメ。

歴史を感じさせる無骨な空間の先に現れる整った刈り込みと土塀、そして数寄屋建築。多くのモダン建築を残されている吉村順三さんの中ではレアな「純和風建築」――以前『鎌倉山の茶室』を紹介しましたが、RC造の主屋が隣接するそちらとはまた異なり庭園含めて純和風な空間――その中にも、床の間の透かし障子や外観の(『桂離宮』松琴亭を模した)市松模様から“現代数寄屋建築”としての“モダンさ”が垣間見えます。

そして庭園もすごく良い――茶屋棟の広間から見て、右手には山並み、左手には名護屋城の石垣を借景に。目の前では水の流れと音が楽しめ、そして直線的に貫く石畳(延段)がモダン。
そしてめちゃくちゃ面白いのが、茶屋棟から右手奥と左手奥に2つある巨石(水の流れはこの2つを繋ぐようにカーブを描く)。名護屋城跡では他の箇所でもこの岩肌を見掛けるのですが、築城前からあったものなのか、築城に際して大名が持ち運んだものなのか――この2つが整った庭園空間で異彩を放ち強烈なインパクトを残す。「Creep」のサビ前みたいな!

庭園の一角には建物の礎石…?が残されているエリアも(説明は無し)。先述の借景の為に木々も低く保たれているな~~というのが伝わってくる。紹介した写真は冬だし雨だし…で、魅力が伝わりづらいかもですが、芝生が青くなり花が咲く新緑の時期には最高だろうなぁ。そしてこの様な“流れ”が、見ることがかなわない吉村順三建築『ロックフェラー家の茶室』にある(らしい)。こんな感じなのかな…と少し想像を補ってくれる。

名護屋城跡は「庭園跡」として明示されている場所こそありませんが、景観としての機能を感じさせる部分は各所にあり――歴史と庭園が好きならばきっと訪れて楽しいはず!
また同じく名護屋城跡の一角に建つ『佐賀県立名護屋城博物館』前川國男の流れを汲む前川建築設計事務所)には先の『草庵茶室』のほか、豊臣秀吉が名護屋城に運び込んだ『黄金の茶室』の復元もあります。歴史ファンも庭園・茶室ファンも吉村順三ファンも訪れて欲しいですここは…!!!

(2025年3月訪問。以下の情報は訪問時の情報です。最新の情報は各種公式サイトをご確認ください。)

アクセス・住所 / Locations

JR唐津線 唐津駅/西唐津駅より路線バス「名護屋城博物館入口」「名護屋城跡」バス停下車 徒歩10分

〒847-0401 佐賀県唐津市鎮西町名護屋3458 MAP

投稿者プロフィール

イトウマサトシ
イトウマサトシ
Instagram約9万フォロワーの日本庭園メディア『おにわさん』中の人。これまで足を運んで紹介した庭園の数は2,000以上。執筆・お仕事のご依頼も受け付けています!ご連絡はSNSのDMよりお願いいたします。
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