西尾家住宅(LE UN 神戸迎賓館)

LE UN Kobe Geihinkan Garden, Kobe, Hyogo

名建築で昼食したくなった貴方に。設楽貞雄設計の近代建築も感動的だけど日本庭園の紅葉の奥には懸造の姿…!

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西尾家住宅(旧西尾類蔵邸)について

【レストラン利用者のみ】
「西尾家住宅」(旧西尾類蔵邸/きゅうにしおるいぞうてい)は神戸の貿易商・西尾類蔵の邸宅および迎賓館として大正時代に竣工した近代建築。洋館(主屋)を手掛けたのは初代通天閣をはじめ近代の関西で活躍した建築家・設楽貞雄。洋館のほか、日本庭園内にある茶室“真珠亭”と離れ“松風閣”が兵庫県指定重要有形文化財で、庭園が神戸市指定名勝。
現在は『LE UN 神戸迎賓館』としてフレンチ・レストランや結婚式場として利用されています。

須磨の近代の豪邸シリーズ。結論から言うとここも今年の5本の指に入るぐらい感動…。
知ったきっかけはたぶん2017年に「神戸市指定名勝の庭園」を調べたところからで、なので知ったタイミングは御影の近代の豪邸『旧乾邸』と同じ。なお乾邸と違って現在も所有者は西尾家なので、神戸市のサイトには「N邸庭園」と記されています。

西桂さんの『ひょうごの庭園~図絵で読み解く~』でも紹介されていたし結構前から行きたかったんですが、「高級そうなレストラン」というのが自分の中ではハードルだった…(笑)食にお金を掛けない方なので…。しかも人気だから一人で予約とかもな、とれるのかなという危惧とかも。

…それがコロナ禍で、自分自身が「価値ある場所にお金を使おう」というモードになったり、電話してみたら一人でもOKというご返事をいただいたので(Go To Eatは2人~なのだけ残念…!)初めて訪れました。須磨離宮からは“離宮道”を渡ってすぐ!いつもの自分なら交差点のBig Boyへ行くところ!

■洋館(主屋)
で、写真では見ていたけどその洋館を目の当たりにして感動…。外観は洋館なんだけども、屋根は瓦屋根で非対称な建築。そしてアプローチには石灯籠にあくまで和風庭園な植栽や庭石。うおーたまらん。
この時点で感動してるんだけど、内装も素晴らしい。まず待合室の洋風建築なのに網代編みな天井。この組合せ初めて見た気がする。

そしてなんと言っても西尾さんはステンドグラスが好きだったようで、玄関にも待合室にも2階への階段にも現・食堂(レストランフロア)にもそれぞれ異なるステンドグラスがはめ込まれている…お会計の時に「この建築マジでめっちゃ最高ですね(←語彙力)」と感動を伝えたら、(ちょうどお食事が終わっていた)他の部屋もご案内いただけました。ありがとうございます!

■日本庭園
そして洋館の奥に、池泉回遊式庭園と茶室、離れ“松風閣”があります。一見なんてことない池泉回遊式庭園のように見えるのですが……樹木が茂っている今の時期は隠れて見えにくいのですが……池の奥の離れが、池泉への流れの谷の上に建てられた懸造り建築になっている。かっこええ。

その離れへ至る石畳に石段、沓脱石のかっこよさを見るに、この庭園は「離れを貴船の川床みたいにする」というコンセプトから逆算して作庭されているんじゃないかと感じる(憶測です)。縣造りから眺める庭園としては名古屋の『東山荘』もそうだったけど、ここから水が流れていく…というダイナミックさはちょっとこの西尾邸庭園はすごい。こんなのはこれまで見たことない。

…素晴らしいからこそ記すのだけど、一つ「こうしてほしいな」という点があるとすれば。自分はあくまで素人なのでそういう言葉は差し控えているのだけど…離れの前で育ってきてしまっているモミジは素人目で見ても邪魔かなー。
秋には紅葉が美しいだろうけど…きっと建物内から見ても幹が視界を遮るし、池側から見てもモミジが懸造りを遮ってしまっている…それが無ければ更に名建築…。誰かお金持ちの方!お金出して!!自治体!補助して!!

この洋館を手掛けた設楽貞雄はすぐ近くに庭園(と和室)だけ残る“岡崎財閥”の邸宅でも洋館を手掛けました。一体どんな洋館だったんだろうなあ…現存する作品があまり多くない方なので、この西尾家はそうした面でも貴重でもあり、何より阪神大震災を乗り越えて、洋館も茶室・離れが元気な姿で残っているのも“素晴らしい”の一言。

“阪神間モダニズム”の庭園について記されている例はあまり多くなく、京都の別荘群と比べて現代においても評価や知名度は高くない感じがするのですが、残されている建築・庭園を少しずつ巡っていると「これからは神戸が一番だ」と言いたげな気概を感じる。西本願寺・大谷光瑞が拠点『二楽荘』を構えたことからも時代は阪神間に確かに移っていた。…んだと思うけど、まあ残っていない建物も多いし、その点「残っている」のが京都のすごいとこなんだけど。

洋館から須磨海岸の方を眺めると、マンションで景色がカットされている。一見無粋なこの景観もこの西尾邸が守られるため、というお話を聞いて大変腑に落ちた。収入大事。そこは想像で補完しましょう。西尾邸は紛れもなく最高。

(2020年10月訪問。以下の情報は訪問時の情報です。最新の情報は各種公式サイトをご確認ください。)

アクセス・住所 / Locations

山陽電鉄本線 月見山駅・須磨寺駅より徒歩12分
JR神戸線 須磨駅・須磨海浜公園駅より徒歩20分
須磨駅より路線バス「離宮公園前」バス停下車 徒歩3分

〒654-0067 兵庫県神戸市須磨区離宮西町2丁目4-1 MAP

投稿者プロフィール

イトウマサトシ
イトウマサトシ
Instagram約9万フォロワーの日本庭園メディア『おにわさん』中の人。これまで足を運んで紹介した庭園の数は1,900以上。執筆・お仕事のご依頼も受け付けています!ご連絡はSNSのDMよりお願いいたします。
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