西尾家住宅(LE UN 神戸迎賓館)

LE UN Kobe Geihinkan Garden, Kobe, Hyogo

まるで“落水荘”みたいと言った――名建築で昼食をしたい貴方にピッタリの近代の豪華洋館と、兵庫県重要文化財に指定の茶室/懸造建築のある日本庭園。

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LE UN 神戸迎賓館/西尾家住宅(旧西尾類蔵邸)について

【レストラン利用者のみ】
「西尾家住宅/旧西尾類蔵邸」(にしおけじゅうたく/きゅうにしおるいぞうてい)は近代の貿易商・西尾類蔵の邸宅・迎賓館として大正時代に竣工した近代建築。洋館(主屋)を手掛けたのは初代通天閣をはじめ近代の関西で活躍した建築家・設楽貞雄。洋館のほか、日本庭園内にある茶室“真珠亭”と離れ“松風閣”が兵庫県指定重要有形文化財で、庭園も『西尾邸庭園』として神戸市指定名勝。
現在は『LE UN 神戸迎賓館』としてフレンチ・レストランや結婚式場として活用されています。

この西尾邸に隣接する『須磨離宮公園』はかつての皇室の離宮(武庫離宮)、その東隣には“華麗なる一族”のモデルの『旧岡崎邸』、南側には“海運王”と呼ばれた内田信也など多くの実業家・財閥のお屋敷/別邸が造営された須磨・月見山。その中で、阪神大震災を乗り越えて現在まで残され、実際に利用も可能な貴重な場が西尾邸/LE UN 神戸迎賓館。
レストランとして利用できる洋館も素晴らしいけれど、ここでは「まるでフランク・ロイド・ライトの落水荘」の様な世界観が垣間見える庭園を主眼に紹介!

明治時代末期に着工した武庫離宮から少し遅れ、1919年(大正8年)に造営された西尾邸。現在も総面積は約10,000平方メートルという広さをほこり、阪神大震災にて一部の建物の倒壊・解体があったものの、車寄せのあるアプローチ、洋館の前の芝庭、その奥の日本庭園…と「大正ロマン漂う神戸の大豪邸」のスケールを感じることができます。

■洋館(主屋)
写真では見ていたけどその洋館を目の当たりにして感動――ヨーロッパで流行したアール・ヌーヴォーの流れを汲む、現存する個人邸としては日本では稀有な“セセッション様式”の洋館。
外観は“洋風”ではあるのですが、屋根は瓦屋根で非対称な建築。そしてアプローチには石灯籠に和風庭園的な植栽や庭石。玄関~ホワイエは洋風だけれど、待合室には網代編みな天井。2階にはどデカい床の間のある大広間があったりと、一言「洋館」と言ってもかなり和洋折衷な、まさに当時の「モダン」が感じられる建築。たまらん…。

そしてなんと言っても西尾類蔵さんはステンドグラスが好きだったようで、玄関にも待合室にも2階への階段にも現・食堂(レストランフロア)にもそれぞれ異なるステンドグラスがはめ込まれている…。『名建築で昼食を』というドラマも放映されましたが、まさにその言葉がピッタリな名建築。

尚、この洋館を手掛けた設楽貞雄は須磨離宮公園内に庭園と和室のみ残る旧岡崎邸の洋館も手掛けました。一体どんな洋館だったんだろうなあ…。

■日本庭園/茶室「真珠亭」/離れ「松風閣」
食事等の後には、洋館の奥にある日本庭園も散策できます。
洋館の煌びやかを先に体感してしまうと“和の空間”は古風で地味に感じてしまうかもしれませんが――(?)茶室、離れ、庭園も文化財であり、海外の庭園関係者が「まるでフランク・ロイド・ライトの『落水荘』みたいだ」と口にする、水の流れ落ちる姿を意図した庭園の姿を見ることができます!

背後の山の斜面の地形を活かした池泉回遊式庭園で、下段部の池には茶室「真珠亭」がせり出します。三面がガラス戸の明るい茶室の真珠亭はベンガラ色の外見が特徴的。当時から国際的だった神戸ならではのオリエンタルな感じもあり、京都のお茶屋さんをイメージしたものとも言われます。『京都平安ホテル』のお茶室と似ている。

そして築山~庭園上部に建つ懸造り建築が離れの「松風閣」。この離れへ至る石畳に石段、沓脱石も一つ一つに手が込んでいてカッコいい。そしてこの懸造りの下を水が流れ落ちてゆく『落水荘』のようなデザイン――現在は山の水源が枯れたため残念ながら水は流れていませんが、その滝壺の部分の石組が今も“Falling Water”としての表現が残っているようにも感じられる。ちなみに、ライトが『ヨドコウ迎賓館』に着工したのは西尾邸が竣工する前年(大正7年)、『落水荘』の設計は10年以上後のこと。
現在この離れは何にも活用されていないのですが、建物内からは全面にモミジが植生し、モミジのシャワーを味わえます。これが秋には紅葉の絶景に!

“阪神間モダニズム”の庭園について記されている例はあまり多くなく、京都の別荘群と比べると現代においても評価も知名度も高くない印象がありますが――残されている建築・庭園を巡っていると、当時の「これからは神戸が一番だ」と言いたげな気概を感じる贅を尽くしたお屋敷が幾つも存在する。
西本願寺・大谷光瑞が一時期拠点を『二楽荘』を構えたことからも時代は阪神間に移っていた――のかなと思うのですが、まあ残っていない建物も多いのが“流行”だったのかもしれませんが。その中でも西尾邸の庭園は『相楽園』に次ぐスケールを残す庭園。

ちなみに、御影の豪邸『旧乾邸』は神戸市の所有となっている一方で、西尾家は現在も「西尾さん」の所有!もっとも現在は往時の様な大富豪というわけではなく震災後の保存工事も費用の工面に非常に難儀したそうですが、そうした側面もあって2007年から結婚式場・レストランとしての活用が始まり、「文化財の商業施設としての活用」の事例としては比較的長い歴史を持ちます。
洋館から須磨海岸の方を眺めると、マンションで景色がカットされている。一見もったいなく感じるこの景観も、この文化財のお屋敷を守り残すため、というお話を聞いて大変腑に落ちた。収入源大事。そこは想像で補完しましょう。西尾邸は紛れもなく最高。

(2020年10月、2023年8月訪問。以下の情報は訪問時の情報です。最新の情報は各種公式サイトをご確認ください。)

アクセス・住所 / Locations

山陽電鉄本線 月見山駅・須磨寺駅より徒歩12分
JR神戸線 須磨駅・須磨海浜公園駅より徒歩20分
須磨駅より路線バス「離宮公園前」バス停下車 徒歩3分

〒654-0067 兵庫県神戸市須磨区離宮西町2丁目4-1 MAP

投稿者プロフィール

イトウマサトシ
イトウマサトシ
Instagram約9万フォロワーの日本庭園メディア『おにわさん』中の人。これまで足を運んで紹介した庭園の数は2,000以上。執筆・お仕事のご依頼も受け付けています!ご連絡はSNSのDMよりお願いいたします。
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