ハート型の“猪目書院窓”が人気。紅葉の名所“教林坊”が近江商人の町・五個荘に開いた新名所には、“鈍穴流”初代・勝元鈍穴が作庭の国登録文化財庭園も。
教林坊別院 マーチャントミュージアム / 松樹館庭園について
【4〜6月/10〜11月の土日祝日のみ公開】
「マーチャントミュージアム」(まーちゃんとみゅーじあむ)は紅葉の名所として人気・有名な滋賀の寺院『教林坊』の別院として2023年春に開館したハウス・ミュージアム。国選定の重要伝統的建造物群保存地区・近江五個荘を代表した近江商人・松居久右衛門家の邸宅として江戸時代〜明治時代に整えられたお屋敷で、建築13棟が国登録有形文化財、庭園が『松樹館庭園』として国登録記念物(名勝地関係)に選ばれています。
2021年に新たに国の文化財庭園となった『松樹館庭園』。
この近江五個荘は古い町並みだけが魅力ではなく、公開されている古民家施設の庭園が実はとても素晴らしい——というのは以前紹介した『近江商人屋敷 外村繁邸』の中でも書いているのですが、この松樹館の庭園はこれまで非公開でした。
そして2023年春、冒頭の写真の「猪目書院窓」(ハート窓)がインスタグラムなどSNSで時折目にするようになったな〜…などと思っていたら、実は松樹館の一般公開が始まったと!早速訪れました。(※公開日は4〜6月/10〜11月の土日祝日のみ。)
近江商人・松居久右衛門について。江戸時代初期に農家から商家へと転身した松居久次郎を初代として、『松久』の屋号で代々活躍。
現在見られるお屋敷は江戸時代後期の1814年に建てられた主屋を中心として、明治時代の初めに新建(書院)、大正時代に廊下座敷、昭和時代前期に新寮・長屋と徐々に増築された姿。これらと表門及び塀、米蔵、文庫蔵、北蔵、南蔵、新蔵、水屋、カワトが国登録有形文化財。
「松樹館」の名は久邇宮朝彦親王より贈られた「松樹」の扁額にちなんだもので、大正時代には久邇宮邦彦王一家がご宿泊。その際に整えられた上段の間や和洋折衷の御座所など、贅の尽くされた近代和風建築を満喫することができます。ちなみに新寮の一角にある東洋陶器製のトイレは日本最古の国産水洗便器なのだとか。
そんな由緒あるお屋敷を後世に残すべく、元の所有者・松居家の想いも汲みながら、このたび紅葉の名所『教林坊』の別院として生まれ変わりました。基本的には当時のお屋敷が調度品と共にそのまま公開されているのですが、新たに蔵の中をお堂として仏様も安置されています。
庭園について。作庭を手掛けたのは勝元鈍穴(勝元宗益)。長浜や近江五個荘を中心に生涯で約500の庭園を作庭したという近江国の作庭家。その作風を継いだ造園会社“花文”による鈍穴流の庭園は五個荘〜湖東地域のみならず京都にも残りますが、その祖・勝元鈍穴自身が作庭した庭園としては数少ない貴重な庭園がこちら。
まずは上段の間のある新建から眺められる“表庭”(主庭)。手前にひときわ大きな伽藍石が以降の“鈍穴流”への特徴を感じさせる回遊式枯山水庭園。庭園奥の大きな石灯籠は名石工・初代西村嘉兵衛の最初期の作品なのだとか。また地元滋賀の守山石や京都の銘石・貴船石や鞍馬石のみならず、近畿では珍しく佐渡の赤玉石を庭園に取り入れている所が面白い点。
そして新寮〜廊下座敷から眺められる枯流のある庭と、ハート窓のある新茶寮/浴月楼1階の煎茶茶室“槐庵”からそれぞれ眺められる“奥庭”。表庭とは雰囲気も時代も異なるけれど、どこかカラフルな庭石の使い方や、太湖石様の奇石、溶岩石など銘石を余すことなく使っている感じが“鈍穴流”の庭園。
ぜひこの鈍穴流の庭園のカッコよさ、知って欲しい!
(2023年6月訪問。以下の情報は訪問時の情報です。最新の情報は各種公式サイトをご確認ください。)
アクセス・住所 / Locations
近江鉄道 湖東近江路線 五箇荘駅より徒歩15分
JR琵琶湖線 能登川駅より路線バス「金堂竜田口」バス停下車 徒歩10分強
〒529-1421滋賀県東近江市五個荘竜田町396-1 MAP