北国街道・野々市宿に残る国指定重要文化財の商家建築は加賀藩・金沢町家の代表例。座敷から眺める庭園も。
喜多家記念館(喜多家住宅)について
「喜多家記念館」(きたけきねんかん)は江戸時代の“五街道”北国街道・野々市宿の町並みに残る国指定重要文化財の商家。江戸時代後期に建てられた主屋に続き、酒造場エリア(酒蔵・前蔵・道具蔵・貯蔵庫・作業場)が2019年に国重要文化財に。その2棟の間に庭園が残ります。
先に紹介した『加賀藩十村役 喜多家』とはまた別の国重文の喜多家。2021年6月に初めて訪れました。住所で言えば野々市市なんだけど、10分ぐらい歩いたら金沢市なので“金沢市の郊外”って感じ。交通手段も野々市駅からの交通機関を考えるよりも金沢市からの路線バスが便利。
喜多家のルーツは福井藩の武士。江戸時代初期の1686年(貞享3年)に野々市に移住、それ以降は“油屋治兵衛”と名乗り、灯油や醤油の製造販売、幕末から昭和年代までは造り酒屋を営む商家でした。
で、今日見られる重厚な商家建築は元は喜多家として建てられたものではなく、金沢の城下町の醤油商・田井屋惣兵衛の邸宅。
1891年(明治24年)の野々市大火で喜多家は酒蔵を残し焼失。再建にあたって金沢から移築されたのがこの主屋なのだけど、今ではこの主屋が“金沢城下町に建っていた、加賀藩の大型町家建築の貴重な事例”として国重文に。『金沢市老舗記念館』よりも古いので似て非なる特徴が。
数寄屋風書院造りの座敷および茶室に面した庭園があります。茶室の軒が大きくて主屋の中に入り込んでいる構造も加賀の特徴の一つ?(国指定名勝『成巽閣』の“清香軒”とか)
庭園が明治時代の主屋の移築とともに作庭されたものなのかそれ以前の江戸時代からあったのかははっきりとしないのですが、遅くとも明治時代には存在した庭園。面白いなあと思ったのは、(この日は水が流れていなかったけど)庭を横切る水路。この水路は並びの別の家屋の庭にも通じているんだそう。同じ水路を取り入れた庭園カルチャー、長野の松代の城下町みたいだ。
そして喜多家住宅のキービジュアルとして用いられているのは、邸宅の外観でも庭園でもなく、囲炉裏。灰を枯山水庭園のように文様を描いている。この家に限らず?茶の湯が盛んな加賀藩ではこのような“灰形”を描いたりするそうで、喜多家でも代々の引継がれてきたのだとか。
邸宅内では加賀藩三代目藩主・前田利常をはじめ前田家の書状や江戸時代の金沢城下が描かれた掛軸なども見られるのですが、前田家と直接関わりがあったわけでなく“昔の喜多家の当主が購入したもの”なんだそう。自らの商売のブランディングの為にもそうした美術品を所持するのがステータスだった。
なお施設名に“旧”とつかない通り現在も所有は喜多家なのですが、現ご当主は関東にお住まいとのことで管理運営は野々市市が担当。野々市宿にはその他にも市指定文化財の『旧魚住家住宅』(野々市市郷土資料館)や『水毛生家住宅』(非公開)も。また訪れたい町並み。
(2021年6月訪問。以下の情報は訪問時の情報です。最新の情報は各種公式サイトをご確認ください。)
アクセス・住所 / Locations
北陸鉄道石川線 野々市工大前駅より徒歩9分
JR金沢駅・金沢市内・JR松任駅より路線バス「野々市本町三丁目」「西野々市」バス停下車 徒歩5分
〒921-8815 石川県野々市市本町3丁目8-11 MAP