2023年、奈良県指定文化財に!平城京の時代から続く奈良を代表する世界遺産の神社に、重森三玲が作庭した2つのモダンな枯山水庭園。(通常非公開)
春日大社貴賓館庭園“三方正面七五三磐境の庭”・“稲妻遣水の庭”について
【庭園は通常非公開】
「春日大社」(かすがたいしゃ)は世界遺産“古都奈良の文化財”にも登録されている、奈良市の代表的な神社。全国に約3,000社ある『春日神社』の総本社であり、本社本殿は国宝、その他の27棟の建造物が国指定重要文化財。
そして通常非公開の大正時代の近代和風建築「貴賓館」に作庭家・重森三玲による枯山水庭園“三方正面七五三磐境の庭”・“稲妻遣水の庭”があります。2023年、令和4年度の奈良県指定文化財(奈良県指定名勝)に新たに選定されました。
通常非公開の貴賓館とその庭園ですが、旅行各社を窓口として年に数回特別拝観があります。ひとまずリンクが固定っぽいサイトを関連サイトにリンクしてますが、『NARA TIME』さんは決まったらTwitterで告知をしてくれる。2021年9月の回に予約し、約5年半ぶりに春日大社にも訪れました。
その歴史について。奈良時代、古くから“神山”とされた御蓋山(春日山)に平城京の鎮護のため武甕槌命を鹿島神宮から祀ったのがそのはじまり。768年に山の麓に称徳天皇の勅命により社殿を造営。
都が長岡京~平安京と遷された後も皇族・貴族から信仰され(藤原氏の氏神でもあり、社紋は下がり藤)、20年に一度の式年造替も約1300年の歴史の中で60回以上執り行われ、“春日造”の社殿を現代へとその姿を伝えます。
武家の時代になると春日信仰はより一般にも広まり、全国各地に分社が建立。国宝御本殿の特別参拝ルートで数多く吊るされている“釣燈籠”には、戦国武将・藤堂高虎や直江兼続、江戸幕府五代目将軍・徳川綱吉らによるものも。そしてその御本殿の中央にあるのが“林檎の庭”。
国宝御本殿の特別参拝は(ほぼ)年間を通じて可能ですが、年に数日のみ実施されるのが《貴賓館及び重森三玲の庭園特別公開》。本殿からやや下った場所にある貴賓館は1925年(大正14年)に建立された近代和風建築で、奈良県指定有形文化財。
その貴賓室に重森三玲が作庭した2つの庭園が残ります(当初は社務所として建築されたので、ちょっと昔の重森三玲本では『春日大社社務所庭園』という名称も)。
それぞれ戦前の1934年(昭和9年)と1937年(昭和12年)の作品で、出世作となる京都『東福寺本坊庭園』よりも早い年代の最初期の作品。しかもそれまでは個人邸しかやっていないので、由緒ある神社仏閣としては最初の作品。なおパートナーとして作庭を行った庭師・川崎順一郎(川崎幸次郎)は松下幸之助の御用達庭師としても知られます。
■三方正面七五三磐境の庭(1934年)
三方にある建物の中庭として作庭された主庭園。その名の通り三方向のどこから眺めても正面に、そしてしめ縄になぞらえた“七・五・三”の配石となるように石組がされた枯山水庭園。
そして何よりこの庭園の特徴と言えるのが、苔と白砂を直線的に区分けする作風。春日大社に所蔵されていて、殆ど公開されない重森三玲自筆の作庭記録には“超自然的”そして“近代芸術”というワードが記されているのだとか(詳しい文章は失念…)。ある意味これは“作庭家・重森三玲”ではなく前衛華道家など“芸術家・重森三玲”としての“庭”を題材とした作品だった、のかもしれない。春日大社側の慧眼もスゴイ。
■稲妻遣水の庭(1937年)
書院を挟んで貴賓館の北側の横長のスペースにあるのが稲妻遣水の庭。奈良時代~平安時代の寝殿造の園池に水を引き込むための“遣水”を直線的に抽象的に表現した作品で、流れの側面にはコンクリートを使用。後の“重森三玲らしさ”に繋がるデザインはこの頃には生み出されていた。
なお、当初はこの稲妻形の中に水を流していたそうですが、素材の劣化に配慮して白砂時期の枯山水タイプに――で、訪れた日の前日はまあまあ雨が降っていらからか、この時は残念ながら白砂という感じではなく泥が流れ込んだ後の姿だった。(前日は雨だったのに、この庭園を見た時間帯は雲ひとつない快晴に当たってしまって建物の影が強く出てしまったことが悔やしい…)
但し。この2つの庭園も比較的最近までは荒廃していたらしく、近年復元整備されたのが現在の姿。
この特別公開も活用に近い考え方というか「時々見てもらわないと定期的に綺麗に保たれない」という背景があるのかもしれないし、あと神職さんが重森三玲マニアのごとく色々お話ししてくださったのだけど、ご自身がその復元整備の担当で、調べているうちに重森三玲ファンになったのかなあ、と思った。
でもそんな風に引き込まれるのって、作品の素晴らしさは勿論だけど作庭記録を残されていたから、そして出版などで自身の作品・言葉を世の中に積極的に発信していた賜物なんじゃないか。
発信によって自身の価値を高め、そして後の時代の人もリサーチしやすい状況が起こっている。きっと今の時代に生きていたらTwitterやInstagramで発信して多くの支持を得ようとする人だったんじゃないか――って神職さんの話を聞いていて感じた。作庭記録もいつか宝物殿で公開されないかなあ。
(2021年9月訪問。以下の情報は訪問時の情報です。最新の情報は各種公式サイトをご確認ください。)
アクセス・住所 / Locations
JR奈良駅・近鉄奈良駅より路線バス「春日大社本殿」バス停下車
近鉄奈良線 近鉄奈良駅より約2km(徒歩25分)
JR関西本線 奈良駅より約3km(徒歩35分)
*「二之鳥居」前に駐輪場&シェアサイクルのポートあり
〒630-8212 奈良県奈良市春日野町160 MAP