神上寺雪舟庭園

Jinjoji Temple Sesshu Garden, Shimonoseki, Yamaguchi

国宝“投入堂”の作者・役小角が飛鳥時代に創建した古刹に残る、苔むした“雪舟の庭”“雪舟庭園”。秋には紅葉の名所。

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神上寺雪舟庭園について

「華山 神上寺」(げさん じんじょうじ)は飛鳥時代の末期、文武天皇の時代に開かれた古刹。“西の高野”とも称されたかつての大寺院の境内には“雪舟の庭”“雪舟庭園”と呼ばれる池泉庭園が残ります――が、決して“やっぱ雪舟、庭園も美しい!”みたいな紹介ではありません。それでも個人的にはめちゃめちゃテンション上がって楽しかった寺院を紹介。

2019年秋の山口旅行。目的は『月の桂の庭』、第一無鄰菴こと『東行庵』、そして城下町長府と――下関市の雪舟庭園。山口県〜島根の益田方面に複数の庭園を残した雪舟ですが、下関市にも雪舟が築庭したと伝わる庭園が残ります(確かに山口⇒島根の通過地点ではある)。
“雪舟作”と言い切られているのは川棚温泉の『妙青寺庭園』。そしてGoogleマップで「下関 雪舟」で検索して出てくる庭園、もう一つがここ。

…“雪舟の庭”という表記は観光案内サイトを中心に記されている一方、誰も「雪舟が作庭した伝わる」とは書いておらず――。名前だけ伝わっていて、雪舟がこの寺に訪れた史実が見当たってないとかそういうことかもしれないけど――。でもまどろっこしいので「“雪舟の庭”って伝わってるんだったら少なからず所縁あるんだろう」と思うことにする。それぐらいのテンションで読んでいただけると幸いです。

歴史の話。お寺のある神上山(華山)は古代・仲哀天皇、神功皇后の時代からの祈願所だったとされます。飛鳥時代に山岳信仰である修験道の開祖とされる役小角が徳仙上人とともに創建。この役小角という人、“投入堂”を投げ入れた人としても知られます。奈良時代~鎌倉時代にかけて繁栄、平安時代には末寺が3,000!にも及んだそう。

江戸時代には藩主・毛利家により保護され、高野山真言宗の大寺院として“西の高野”と称されたとか。その後は勢力が衰え、明治時代までは6つのお寺があったそうですが現在は“中の坊”だけが残ります。山門の仁王像は運慶の作と伝わり、宝物としては山口県指定重要文化財の絹本著色仁王経曼荼羅図、絹本極彩色智界曼荼羅、絹本極彩色理界曼荼羅を所蔵。

…と、ここまでは普通の紹介なのですが。ここからは素直な感想を。
思えば“廃仏毀釈”という言葉をまともに認識したのは雪舟の庭園を観るために福岡・英彦山へ行ったことがきっかけで――「明らかにお寺があったであろう区割りなのに、何もない」姿に結構衝撃を受けたんですが。それ以来の衝撃。
この神上寺も正直かなり山奥で。境内の雰囲気が昔こうだったわけではないにせよ(栄えていたわけだから)、役小角が「元々英彦山で修行していた」と知ると「マジかー!納得!」とうなってしまう…。

山門をくぐってからの参道の自然っぷりが。すごかった。ガタガタの石段。一部崩壊した石鳥居。倒木。どんな大寺院でも、お手入れせずに自然に任せて放置されたらこんな風になるのか――
壊れてる鳥居は廃仏毀釈の名残なのかな…それでも。その長い石段と今なお残る石垣からは、かつて多くの塔頭や子院が立ち並んでたんであろう姿が想像できる。そんな“いつからか放置された”歴史の中を歩いている感じがしてめちゃくちゃ興奮した。こんな場所が残されているのか。

“雪舟庭園”は一応案内があったんだったかなあ…参道から少し横にそれたところに、枯れ木と落葉、苔に覆われた池泉鑑賞式庭園があります。堆積した泥の感じから元々は結構広い池泉だった――ということもわかる。
池の隅に立つ茶室は“無心庵”という名前。ここから伸びている飛び石もその殆どが苔むしている。山の斜面も土が堆積して「なんか石組があることはわかる」という感じ。いつからこの状態なのだろう…。

でも言いたいのはネガティブなことではなくって――この状態になっても山から流れ込む清流で今も心字池が美しいことがすごい。雰囲気は英彦山の国指定名勝庭園『旧亀石坊庭園』と似ているような気はするし――この庭園はたとえ雪舟の作だとしてもこのまま朽ちてゆくのかも――なんて言いつつも、一応地元の紅葉スポットとして知られるそうなので、頭上のモミジが真っ赤に染まった頃には地元の人が結構紅葉狩りに訪れるのかな?

境内を上部まで登っていくと、護摩堂やちゃんとした“御成門”を持つ昭和年代に再建された本堂などがあります。「ユースホステル神上寺」として運営されているので普通に泊まることも可能。そしてその向かいには“雪舟庭園”よりは開けて明るい、そして苔と紅葉の美しい池泉庭園があります。

あと門前には江戸時代の浄瑠璃の作者・近松門左衛門の出生地伝説地の碑が立ちます。オススメの庭園…とは言えないけど、マニア心をかなりくすぐられる庭園の紹介でした。歴史好きや物好きという自覚がある人なら、同じような興奮を味わえるかも――。インスタで、ここで映え写真撮ってる人が居るのがまた面白い。“東の高野”『行道山浄因寺』もあわせてどうぞ。

(2019年11月訪問。以下の情報は訪問時の情報です。最新の情報は各種公式サイトをご確認ください。)

アクセス・住所 / Locations

JR山陽本線 小月駅より路線バス「石町」バス停より徒歩30分
⇒1時間に1本程度あり。バスの時刻表は⇒サンデンの公式より
小月駅より約15km

〒750-0452 山口県下関市豊田町江良624 MAP

投稿者プロフィール

イトウマサトシ
イトウマサトシ
Instagram約9万フォロワーの日本庭園メディア『おにわさん』中の人。これまで足を運んで紹介した庭園の数は2,000以上。執筆・お仕事のご依頼も受け付けています!ご連絡はSNSのDMよりお願いいたします。
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