旧乾邸(旧乾家庭園)

Former Inui House Garden, Kobe, Hyogo

村野藤吾の師・渡辺節設計による“阪神間モダニズム”で現存する代表的洋館と、神戸市名勝の流水観賞式庭園。

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旧乾邸(旧乾家住宅/旧乾家庭園)について

【通常非公開】
「旧乾邸」(きゅういぬいてい)は乾汽船の創業家である“乾財閥”4代目乾新兵衛・乾新治の自邸として昭和初期に造営された邸宅。当初建てられた建造物のうち和館は阪神大震災で全壊してしまいましたが、残された洋館は「旧乾家住宅」として神戸市指定有形文化財、庭園が「旧乾家庭園」として神戸市指定名勝となっています。
通常非公開ですが年に1・2回程度、申込制の特別公開があります。2019年11月初旬の公開に当選したので初めて訪れました!

旧乾邸のことを知ったのはたしか数年前の神戸旅行前に「神戸市指定名勝」を調べたことから。旧乾家で調べたら…写真見てもう庭園より「なにこのかっこいい洋館!!」と。いつか特別公開行きたいなと思っていて――ちょうど引越しが決まった時点でこの秋の公開も決まり応募!幸運にも当選。
西宮〜芦屋〜神戸の六甲山麓ってなんとなくずっと「高級住宅街」というイメージがあって――(そういう描写が昔の漫画にあったんだと思う)、豪邸=庭園があるはずだよな〜とは思ってたのですが。この乾邸で初めてその類の庭園へ足を運びました。最寄駅・御影駅からの道を歩いてても高級住宅街感ある。

乾汽船のことは知らなかったのですが…現在は東京の勝どきに高層自社ビルを持つ東証一部上場企業。日本を代表する海運企業の一つ。
その創業者、3代目乾新兵衛が乾家に入り当主を継いだ頃は酒やみりんの醸造業を営んでいたそうですが、日露戦争を機に伸び盛りだった神戸の海運業界に進出。その後の成長は乾汽船の沿革のページをば。

この洋館を手掛けたのは4代目当主・乾新治と親交のあった近代の建築家・渡辺節。この渡辺節さんの名前は今回初めて認識したのですが、村野藤吾の師匠というとわかりやすいっていうかマジかすごい人じゃんか。
現存する代表作としては大阪・本町の綿業会館(国指定重要文化財)や神戸・旧居留地に残る商船三井ビルディング。

造営は昭和10〜12年(1935〜1937年)。印象的な色合い――竜山石を多く用いた外観もかっこいいんだけど――建物内も本当にめっちゃくちゃいい。石造りのアプローチ、玄関のタイル、美しいステンドグラスにゲストルームのシャンデリア。そして和室や六甲灘まで見下ろす3階サンルームからの眺望。
贅を尽くしながらも、ところどころに使われている木材が「派手さ」を打ち消しててそれがいいんだよね〜ちゃんと和の暖かみを感じる近代建築。

洋館のテラスの前には芝生の庭園が広がりますが、その奥――かつて和館があった場所の前に和風庭園が残ります。和館は現存しないけれど、沓脱石だけ残されてるんですよねえ…エモい。そこから庭を眺めると今は隣接する家屋が真正面に来てしまったけれど、かつては大阪湾まで眺められたのかもしれない。

2箇所の井戸(手水鉢風)から湧いた水が合流し“流れ”を作る流水観賞式庭園は、その洋館の洗練された感じと比べると――この庭園はすごく自然風。樹木が茂った上段部分から水が流れ出している感じや沢飛石の決して整いすぎていない感じや。残された2つの沓脱石は鞍馬石だそうなので、近代京都の(植治の)自然風庭園からの影響がこの六甲の地にも伝わってきていたのかな。作庭者の情報はないけれど――監修に名前のある西桂先生の本で探してみよう。
今回は公開のために水を流してくれたんだろうけど、井戸から水を流すのもタダではない(溜めるような池もない)。その点も贅沢だなと感じる庭園。

余談を3点。こういった申込制の文化財特別公開って「大体自分より二回りぐらいの方」が殆どなのですが、この乾邸の特別公開に関しては自分より若そうな方々が多かったのも印象的だった。何をきっかけに知ったんだろう?庭園と洋館ではまた来る層が違うと言えばそうなのだろうけど――仮に“写真に映えそう”とかだとしても、こうした「後世に残ってほしいもの」に若い子が興味示してくれるのは嬉しいなあ。あと日本庭園も映えると思うよ(小声)

旧乾邸も決して恵まれた環境でここまで現存しているわけではなく、阪神大震災の影響で国から神戸市への譲渡が頓挫。現在もこのような見学会やドラマのロケ場所にはなっているようですが、本格的な活用・公開には至らずに地元のNPOにより保存運動が起こったことも。現在は財団法人住吉学園や乾邸管理会の下で管理されていますが、見学の模様も「ネットに載せるのはいいけど、くれぐれも商用目的の掲載はないように」とのお達しがありました。最近は言葉でそう言われる機会も増えた。

余談最後。↓の画像の通りやはりこの周辺には豪邸は立ち並んでいた。住友本家、野村財閥・野村徳七、東京『八芳園』の久原房之助の邸宅も。近隣には白鶴美術館や香雪美術館、あと見学方法がまだ調べきれていないけど武田資料館(旧武田家住宅)も。

当時の近代建築は“阪神間モダニズム”と呼ばれるらしいです。庭園目線で見てるとこの辺の情報が少ない――個人的に今後掘り下げたいテーマの一つ。

(2019年8月訪問。以下の情報は訪問時の情報です。最新の情報は各種公式サイトをご確認ください。)

アクセス・住所 / Locations

阪急神戸線 御影駅より徒歩15分
JR神戸線 住吉駅より徒歩20分
JR摂津本山駅より路線バス「白鶴美術館前」バス停下車 徒歩2分

〒658-0063 兵庫県神戸市東灘区住吉山手5丁目1-30 MAP

投稿者プロフィール

イトウマサトシ
イトウマサトシ
Instagram約9万フォロワーの日本庭園メディア『おにわさん』中の人。これまで足を運んで紹介した庭園の数は2,000以上。執筆・お仕事のご依頼も受け付けています!ご連絡はSNSのDMよりお願いいたします。
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