今上天皇や昭和天皇も御宿泊された福島・飯坂温泉の老舗旅館の近代和風建築と、四畳半茶室を中心とした露地庭/茶庭。山並みの借景も◎。国登録有形文化財。
坐忘庵・花水館奥の間について
【冬季は公開休止】
「花水館」(はなみずかん)は福島・飯坂温泉で江戸時代に開業した老舗旅館(現在は廃業)。現在の今上天皇や昭和天皇をはじめ、歴代の皇族方が御宿泊された近代和風建築「奥の間」と茶室「坐忘庵」のみ現存し、その庭園とともに観光客向けに一般公開されています。奥の間は「花水館奥の間(御殿)」の名称で国登録有形文化財。
2023年夏に初めて福島市・飯坂温泉を訪れました。温泉街で無料で公開されている文化財・庭園がこちら。
古くは縄文時代や日本武尊が東夷東征をした際に立ち寄ったという伝承/歴史も残る飯坂温泉。江戸時代には松尾芭蕉の『おくのほそ道』でも紹介され、温泉街には松尾芭蕉に関する石碑や句碑も幾つか立ちます。
その松尾芭蕉にも影響された正岡子規・与謝野晶子らの俳人/歌人、そしてヘレン・ケラーなどの著名人にも愛された飯坂温泉。現在では昭和レトロな建物/街並みを楽しむことができます。
そんな飯坂温泉で江戸時代初期の創業という老舗だったのが「花水館」。先述の皇族方(合計49回!)やヘレン・ケラーも宿泊したという名門でしたが、2007年(平成19年)に廃業。現在は隣接する『飯坂ホテルジュラク』の駐車場となっていますが、その駐車場の一角に残されているのが「奥の間」と茶室「坐忘庵」・離れ「石心亭」。(毎日9時頃〜16時頃に園路が開放・公開)
現在見られる花水館奥の間・坐忘庵が建築されたのは明治時代。元は共同浴場「鯖湖湯」付近で創業した旅館だったそうですが、1887年(明治20年)に現在地に移転。その後、皇族の行幸に伴って1897年(明治30年)に新築されたのが奥の間。
緩やかな弧を描く銅板葺屋根がかっこよく、銘木をふんだんに取り入れた10畳2間の座敷は格天井や調度品・意匠がその格式の高さを感じさせる書院造りの近代和風建築。大工棟梁は地元・飯坂の小笠原国太郎と伝わります。
順路で言うと先に鑑賞することになるのが離れ「石心亭」の前庭と本格的な四畳半茶室「坐忘庵」。躙口の前には鞍馬石が配され、その露地を含めて“京風”を感じられる空間。
これらの和風建築を取り囲むように日本庭園があります。元々の中庭を活かしつつ、その大部分は花水館の既存の建物が取り壊された後、新たに作庭された平成年代の作庭。坐忘庵の周囲は自然風の植栽が楽しい露地庭/茶庭。そして奥の間の前には枯山水庭園が広がり、その東方には摺上川/愛宕山などの山並みの借景が開放的で美しい。
なおこの茶室・庭園の並びにある日帰り入浴施設『花ももの湯』にはまさに日本庭園のような露天風呂も。ぜひ合わせて楽しんでみて。
(2023年8月訪問。以下の情報は訪問時の情報です。最新の情報は各種公式サイトをご確認ください。)