“金田一財閥”が目指した“東北の宝塚”花巻温泉郷。昭和/平成を代表する造園家・中島健が作庭した枯山水庭園はこの庭園カッコいいオブザイヤー候補の1つ…
花巻温泉 ホテル紅葉館庭園について
「花巻温泉 ホテル紅葉館」(はなまきおんせん ほてるこうようかん)は岩手県花巻市の“花巻温泉郷”の温泉リゾート・ホテル。ロビーから眺められる庭園は昭和〜平成の日本を代表する造園家のひとり・中島健の作庭。
宮沢賢治が生まれ育った街、そして近年では菊池雄星選手、大谷翔平選手とプロ野球〜メジャーリーガーを輩出した花巻東高校で知られる花巻。中心市街地から離れた山間部にはさまざまな温泉宿のある温泉郷でもあります。
その中の温泉街の一つが市街地から花巻東高校を経由して約8kmの場所にある「花巻温泉」。その歴史は古く、ちょうど100年前の1923年(大正12年)に“金田一財閥”金田一国士の《花巻に宝塚に匹敵するリゾート地を建設する》という計画/想いの下で創業。創業の4年後には大阪毎日新聞と東京日日新聞主催の「日本新八景」で200万票を獲得し全国1位に。
当時はこの温泉へと通ずる鉄道・花巻電鉄も開業し、昭和天皇をはじめとする皇族、斎藤實、高橋是清、後藤新平といった首相〜大臣クラスの政治家、与謝野鉄幹・与謝野晶子夫妻、高浜虚子、九条武子といった文人/歌人など多くの著名人が訪れる温泉リゾート地へと成長しました。この『ホテル紅葉館』の向かいのバラ園(宮沢賢治ゆかりの花壇も)に皇族が宿泊された高級旅館『旧松雲閣別館』(国登録有形文化財)が残ります。
現在は、かつて存在した旅館の名前を引き継ぐ『ホテル紅葉館』『ホテル千秋閣』とそれらを結ぶ『ホテル花巻』、そして『佳松園』の4軒のホテル/旅館があり、そのうち紅葉館・千秋閣・ホテル花巻は連絡通路で繋がり3軒の湯めぐりを楽しむことができます。
現在の「ホテル紅葉館」の開業は1979年(昭和54年)で設計・施工は竹中工務店(なお2022年に客室/大浴場がリニューアルしたばかり)。舞台のあるロビーからは奥の山を借景とした本格的な枯山水庭園を鑑賞することができます。
作庭は中島健。国内では『吉田茂邸』など総理大臣の邸宅、海外でも多くの日本庭園を残されている人物。東北では『ホテル松島一の坊』の庭園が氏の作品で、前述の庭園や『なばなの里』などどちらか言うと池泉のある巨大な庭園を多く手掛けられている氏としては比較的小規模な庭園。
ただ強調したいのは、小さいからダメという話ではなくて。
この枯山水庭園、めちゃくちゃかっこいい。
中島健さんの枯山水庭園というと東京・御嶽の『玉堂美術館』の庭園も名作ですが、この紅葉館の庭園もムダのない非常に洗練されたモダンなデザイン。特に細長く寝そべった庭石は意味ありげ…。
枯山水として非常にカッコいい——と思っていたんだけど、少し昔の写真を見ると、実は本来は浅い水盤が張られた池泉庭園だった時代もあったみたい。これがまた現代日本庭園としてめちゃくちゃかっこいい感じで——。思い浮かぶ東北の風景があったけれど、それを書くと野暮ったくなりそうなので心に留めておこう。
この花巻温泉ではそんな枯山水庭園が複数あります。
ちなみにホテルの3階屋上部(出られません)にもまた印象的な菱形のサツキの刈込が植栽されていて。上層階の客室の方向けの景観にも工夫が施されているのも面白い!
ちなみにこの花巻温泉の前史として、花巻温泉の更に奥にある「台温泉」のランドスケープは近代日本を代表する造園家のひとり・長岡安平が設計に関与。また一帯にある『釜淵の滝』は国指定名勝『イーハトーブの風景地』に構成される景勝地です。ランドスケープ好きな方にこそ足を運んで欲しい温泉地!
(2023年9月訪問。以下の情報は訪問時の情報です。最新の情報は各種公式サイトをご確認ください。)