丹後を代表する豪商の館として建てられた国登録有形文化財の屋敷と“植藤”佐野藤右衛門作庭による庭園。
豪商稲葉本家について
「豪商 稲葉本家」(ごうしょういなばほんけ)は江戸時代以降の久美浜を代表する豪商の屋敷を中心とする観光施設。江戸時代後期〜明治時代より残る母屋、長屋門、蔵が国登録有形文化財で、母屋から眺められる枯山水庭園は京都・仁和寺の出入り庭師である第十六代佐野藤右衛門による作庭。
2019年夏、京都丹後鉄道の旅で初めて久美浜の街を訪れました!元々の目的は京都府指定名勝の『宗雲寺庭園』だったのですが、久美浜の観光スポットについて調べると代表的な観光スポットがどうやらこの稲葉本家。国登録有形文化財の豪商の館――ということはなんらかの庭園があるのでは――という推測を元に訪れたのですが、正解でした。
稲葉家の初代・喜兵衛は織田信長の家臣・美濃三人衆の稲葉一鉄の一族出身とされます。久美浜に移り住んだ当初は農家だったそうですが、港町・久美浜で千石船による貿易商として興隆、江戸時代中期には久美浜代官所が設置されたのにあわせ幕府の公金預かり所に、その後は近隣の諸般の公金預かり所にもなり当地を代表する豪商になりました。明治時代、12代目当主・稲葉市郎右衛門は京都府議・衆議院議員、京都府一の納税者としても名を連ねたそう。
また13代目・市郎右衛門は現・京都丹後鉄道、旧国鉄宮津線の豊岡―久美浜間の開通にも私財を投じ多大な貢献を果たしました。
現代となり15代目当主の代にこのお屋敷が久美浜町(京丹後市)に寄贈。一部改修された上で現在は観光拠点として運営されています。“拠点”という性質が強いからなのか、こうしたお屋敷で入場無料というのは珍しい!その分、地元の特産物が販売されていたり、カフェやランチメニューもあったりします。名物はぼたもちなんだそう。
明治時代に5年かけて建てられたという国登録有形文化財の母屋の前に、芝と苔の築山を主体とした枯山水庭園が広がります。作庭を手掛けたのは、江戸時代から京都・仁和寺の桜守を務める『植藤』の16代目佐野藤右衛門氏で、この庭園では久美浜湾が表現されています。稲葉家旧庭園をベースに現在の庭園を作庭されたそうなのですが――旧庭園も少し見てみたかった気持ちも。
植藤造園さんの名前を挙げるのは多分初めてですが、これまで自分が訪れた中では仁和寺のみならず円山公園の枝垂れ桜は15代目が育てられたもの、そして近年では『閑院宮邸跡庭園』の整備は植藤さんが手掛けられたもののようです。民間実績で見ると国立市の実績が複数載ってて「国立!?」って感じだったんだけど、東京にも営業所があるみたい。
また母屋とは渡り廊下で通じている“吟松舎”は徳島藩主・蜂須賀斉昌が来訪される際に建てられたという江戸時代の建造物。こちらに食事コーナーがあり、また同じく江戸〜明治期に建てられた蔵は資料館として資料室・アートギャラリーになっています。また玄関前には植藤さんの育てた藤右衛門桜も。
今回訪れた久美浜は『城下町に由来する風情ある久美浜の街なみ』として京都府景観資産にもなっており、この豪商稲葉本家や宗雲寺以外にもレトロな町並みが残っている良い雰囲気の街だった(稲葉本家から少し離れた場所には「稲葉東家」の立派なお屋敷も)。久美浜湾の対岸には小さな天橋立…という名の由来のある“小天橋”もあり、3駅隣には温泉郷も。また行きたい街!
(2019年8月訪問。以下の情報は訪問時の情報です。最新の情報は各種公式サイトをご確認ください。)