近江商人屋敷藤井彦四郎邸

Gokasho Omi-shonin Yashiki - Fujii Hikoshiro House's Garden, Higashi-Omi, Shiga

滋賀県の庭園 > 東近江市・五個荘の庭園

重要伝統的建造物群保存地区“五個荘金堂”の最も広大な庭園！京都“和中庵”も知られる近江出身の実業家が造営した近代のお屋敷。建築が滋賀県指定文化財/国登録有形文化財。

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五個荘近江商人屋敷藤井彦四郎邸庭園について

「藤井彦四郎邸」（ふじいひこしろうてい）は国の重要伝統的建造物群保存地区に選定されている古い町並み『五個荘金堂』に残る近江商人屋敷の一つ。昭和時代初期の近代和風建築が「旧藤井家住宅（五個荘町歴史民俗資料館）」の名で滋賀県指定有形文化財（2棟）や国登録有形文化財（7棟）、建築に先行し大正時代に作庭の始まった日本庭園が東近江市指定名勝となっています。

江戸時代以降に興隆した「近江商人発祥の地」として大きな商人屋敷が立ち並ぶ一方で、国指定重要文化財の本堂を持つ「弘誓寺」や聖徳太子が創建したと伝わる「浄栄寺」が集落の中心に位置し、寺社や水路、周辺の水田を含めた景観が歴史的なものとされている『五個荘金堂』の町並み。

この「藤井彦四郎邸」は近江鉄道・五箇荘駅や能登川駅からは最も近くに位置しますが、他の公開施設『中江準五郎邸』、『外村繁邸』などのある五個荘中心部からは徒歩15分程の距離があります（正確に言うと五個荘の隣の集落「宮荘」に所在する）。しかしながら（『マーチャントミュージアム』、『まちなみ保存交流館』を含めて）幾つかの公開施設の中でも最も規模の大きなお屋敷と庭園を見ることができます！

この地（五個荘宮荘）を本拠とし、京都に店舗を構えた近江商人・三代目藤井善助の次男として明治時代の初めに生まれた藤井彦四郎。

兄の藤井善三郎（四代目藤井善助）が家督を継ぎ、のちに五個荘の村長や衆議院議員、さまざまな企業の経営者（有名所では日新電機、現・近江鉄道や京阪京津線の前身鉄道会社、琵琶湖ホテルなど）を務めた一方で（京都・岡崎の『有鄰館』でも知られます）、藤井彦四郎も分家して糸商「藤井彦四郎商店」（藤井糸店）を創業。

フランスを筆頭とする海外の繊維市場の動向をいち早くキャッチし、「鳳凰印の小町糸」「スキー毛糸」ブランドで成功を収めます。彦四郎の興した会社の一つ「共同毛糸紡績」を吸収合併したのが現在の倉敷紡績（クラボウ）（→倉敷『新渓園』）で、彦四郎も近代に日本の化学繊維市場の礎を築いた実業家の一人にも挙げられるとか。

商売・生活の拠点は京都に置いていた彦四郎。西陣〜梨木神社付近〜岡崎〜吉田神楽岡〜岡崎天王町と移り住んだ末、1928年（昭和3年）に現在も建築と庭園の残る鹿ヶ谷の『和中庵』（ノートルダム女学院敷地内）を造営し京都本邸とします。

五個荘のこの本邸は、父の代（明治時代）に建築された主屋に隣接〜繋げる形で1933〜34年（昭和8〜9年）に造営。竣工こそ京都・和中庵より遅いものの、用地買収〜宅地造成や設計は和中庵と同時並行で進められました。

8,000平方メートルを超える敷地面積をほこる五個荘の藤井彦四郎邸。コンクリート造の外塀や洋風の門が近代のお屋敷の様相を醸します。
京都の宮大工を呼び寄せ総檜造りで造営された客殿と「スイスの山小屋」をイメージした洋館が滋賀県指定有形文化財。主屋/渡り廊下/内塀/外塀/石橋/南土蔵/北土蔵の7棟が国登録有形文化財。藤井邸は広い庭園に面しているのが客殿で、渡り廊下で結ばれた先が主屋となっています。

敷地の多くを占めるのが、客殿の南に広がる約800坪の広さの庭園。藤井彦四郎自身がデザインしたと言われるこの庭園。琵琶湖をイメージしたという広い池を中心に置いた池泉回遊式庭園で、その周囲には約80本のマツを植栽。池の中や周りに配されている庭石（巨石や奇石）、石灯籠も彦四郎自身が収集したもの。客殿付近や客殿の対岸の築山の上からは五個荘地域の名山「繖山」「箕作山」を借景として望むことができます。お庭の広さも当然すごいけど、周囲に高い建物がないので空が広く感じる…！

近江五個荘には、五個荘を中心に滋賀で数多くの古庭園を残す花文（鈍穴流）という庭師／今で言う造園会社がありますが、この藤井彦四郎邸はそれとは全く異なる作風。彦四郎がデザインした…というのもそうだけど、建築と同じくお庭の作庭に関わった職人も京都から呼び寄せたのでは…？

細かいところは庭師が担当しているとすると。たとえば、客殿の特徴的な沓脱石（多くの石を組み合わせて作っている）の意匠は安土の『伊庭家住宅』に似ているし、室内のお手洗いに“加茂の七石”真黒石を敷き詰めた意匠があったりする。藤井彦四郎は京都の南禅寺界隈別荘群『和楽庵（何有荘）』を造営した稲畑勝太郎と関係性が深かったらしく…稲畑勝太郎と関係性のあった七代目小川治兵衛（植治）の系統の庭師がここに来ていたのかなあ〜などと想像。クラボウ・大原邸も植治だしな…。

尚、「主屋」の方にも伽藍石〜飛び石の配された町家風のお庭が残ります。前述の「お手洗いの意匠」ともどもチェックしてみて。近江五個荘の庭園巡りは本当にオススメ！！！

（2019年3月、2023年6月訪問。以下の情報は訪問時の情報です。最新の情報は各種公式サイトをご確認ください。）