作庭家・岩城亘太郎の代表作は“現代の大名庭園”規模。松下幸之助、村瀬玄中好みの茶室や2020年作庭の最新庭園も。
古峯神社・古峯園について
「古峯神社」(ふるみねじんじゃ)は世界遺産“日光の社寺”26院80坊の僧たちがかつて修行に励んだ霊地“古峰ヶ原”に鎮座する栃木県を代表する神社の一つ。その庭園『古峯園』(こほうえん)は昭和の東京を代表する作庭家・岩城亘太郎による作庭で、氏の興した岩城造園(現・岩城)の公式サイトのトップでも使われている氏の代表作の一つ。
※なおパンフレットには【園内での撮影は禁止されております。】と記載がありますが、本記事は許可をいただいた上で写真を紹介しております。
2021年秋に2年ぶり、コロナ以降では初めて北関東の地を訪れました。その大目的――はサッカーの試合だけどそれはさておき、栃木で一番訪れたかったのがこの庭園。東京住まいだった頃から「行きたいなあ」とは思いながら、決して訪れやすい場所では無いのでなかなかかなわなかったんだけど、ようやく…!鹿沼市の市街地から西へ約30km、この距離を400円で運んでくれる「リーバス」は超破格…。
その歴史は1300年以上前に遡り、京都からこの地へ移った隼人という人物が“火防の神”日本武尊(ヤマトタケルノミコト)を御祭神として遷座(創祀)したのがはじまりとされます。
その後、日光山や中禅寺を開いた奈良時代~平安時代の僧・勝道上人が日光山開山前に修行したのが古峯ヶ原であった――という縁起から、この地は明治維新に至るまでの約1000年に渡り日光全山の僧たちが年々登山し修行を励む修験道になりました。
また江戸時代には“古峯信仰”として庶民からの信仰も集め、参詣者からは“こみねさん”“こぶがはらさま”とも呼ばれるそう。また御祭神のお使いが天狗であることから、天狗信仰の神社として“天狗の社”の異名も。
社殿の南西部にあるのが神苑“古峯園”。古峰ヶ原の自然の地形と大芦川の清流を活かして1977年(昭和52年)に竣工した、約30,000坪(99,000平方メートル)の広大な日本庭園。現代の大名庭園!なんて言いたくなるスケールと山々の借景が素晴らしいのだけど、生憎の雨だけが悔しい…。
■峯の池~峯の滝
アジサイの植わった杉並木のアプローチを抜けると、“峯の池”を中心とした池泉回遊式庭園が広がります。
圧倒されるのは借景以上に、“峯の茶屋”の建つ野面積みの石垣。城郭以外で現代ではなかなか見られないスケールで、(神社だけれど)大名庭園スケールだな、という言葉が浮かぶ。大名庭園好きな人はきっとこの庭園が好き。そしてその石積の裾から落とされている“峯の滝”も岩城亘太郎庭園ではトップクラスのド迫力。
池の手前には花菖蒲、そして池に沿ってサツキやツツジの刈込、そして斜面に植わった紅葉にマツ…と四季折々の花木や苔など植栽は言うまでもなくお見事で、園内には源頼朝由来の鎌倉時代の七重の塔をはじめ、華頂宮家伝来の雪見灯籠など由緒ある石造物も点在しています。
■峯の茶屋(14~18枚目)
峯の池を見下ろすように建つ和風建築の“峯の茶屋”では軽食や甘味をいただくことができます。
2020年に新たに建替えられたばかりで、これまた美しい枯山水庭園もその際に改修されたばかり。苔と白い玉石のコントラストが枯山水庭園のニュースタイルといった感じで非常にかっこよいし、今回はちょうどドウダンツツジが真っ赤に染まってそれがまた美しかった!
■茶室“翠滴”(19~20枚目)
峯の茶屋から更に上った場所にある茶室が“翠滴”。茶道裏千家・十一代の精中宗室(玄々斎)の高弟で今日庵の名誉教授にもなった茶人・村瀬玄中好みの茶室で、中は非公開ですが京都『金閣寺』の古材を床柱としていてそこには金箔も残るとか。茅葺屋根の方は別棟。
で、更にその先へと進むと芝生広場と2013年の伊勢神宮式年遷宮の際に拝領した御用材を用いて建築された古峯神社摂社の姿があります。パンフレットと公式サイトで敷地面積の数値が異なるのは、近年このエリアが拡張されたゆえ。
■茶室“峯松庵”(29~32枚目)
最後に“峯の池”のほとりにある茶室。その名はパナソニック創業者・松下幸之助から“松”の文字が取られていて、茶室に掲げられた扁額も氏より奉納されたもの。この裏千家“又隠”を写した茶室の立礼席では600円でお抹茶をいただくことができます。(そして室内にはこの『古峯園』が紹介された雑誌も。)
苔むした露地庭は玄関口からちらっとのぞくことしかできませんが、築地塀の中では先の開放的な庭園とはまた異なる世界観を味わうことができます。築地塀越しの借景もまた良き。
公共交通機関(リーバス)で往来する場合、最低でも1時間30分~の滞在にはなるのだけど、お抹茶とか飲んでるとけっこうギリギリなぐらい広いし見所がある庭園。また晴れの日や紅葉の時期に訪れたいなー!
神社の更に先の“古峰ヶ原高原”は現代ではハイキングコースやツツジの名所としても人気だそうなので、自家用車の方はそちらにも。
(2021年10月訪問。以下の情報は訪問時の情報です。最新の情報は各種公式サイトをご確認ください。)
アクセス・住所 / Locations
JR日光線 鹿沼駅・東武日光線 新鹿沼駅よりコミュニティバス(リーバス)「古峯神社」バス停下車 徒歩3分
リーバスの時刻表は鹿沼市のサイトにて。⇒こちら
〒322-0101 栃木県鹿沼市草久3027 MAP