鈍考 / 喫茶 芳

Donkou / Kissa Fang, Kyoto

選書家・幅允孝が京都に開いた私設図書室&喫茶室から眺める、檜林の借景をシームレスに繋ぐ苔むしたお庭。“庭知”伊庭知仁作庭/建築設計は堀部安嗣。

庭園フォトギャラリーGarden Photo Gallery

鈍考 / 喫茶 芳について

【完全予約制】
「鈍考/喫茶 芳」(どんこう・きっさ ふぁん)は選書家/ブックディレクター・幅允孝さん(有限会社BACH代表)が2023年に開かれた私設図書室&喫茶室。その建築の設計は堀部安嗣建築設計事務所、そのお庭は滋賀・草津を拠点に京都の個人邸も幾つも手掛けられている庭師「庭知」伊庭知仁さん(⇒公式HP)の作庭。

近年では『こども本の森 中之島』、『那須塩原市図書館“みるる”』等の選書や、京都では『ワコールスタディーホール』、庭園関連では静岡県の国指定文化財庭園『楽寿園』等の公共施設での選書・ライブラリー制作を手掛け、また書店を初め多くの商業施設の本の売り場ディレクションを手掛ける幅允孝さん。2005年に立ち上げた有限会社BACHの「京都分室」として2023年に開かれたのがこの「鈍考」で、『修学院離宮』から『瑠璃光院』へと抜ける山裾の住宅地、観光ルートではないエリアに佇みます。

《時間の流れの遅い場所を作る》をコンセプトに、完全予約制で90分ごとの時間制、(なるべく)スマートフォンを触らずに、本を読んだり喫茶をしてその時間を過ごす――そんな空間が鈍考。選ばれた本は生活・暮らしや哲学・思想・メンタル、アート・建築やスポーツ書まで、多くの蔵書から選ばれた約3,000冊。また「喫茶 芳」店主・ファンさんによる、手廻しロースターで深煎りに自家焙煎された豆からゆっくりとネルドリップで抽出されたコーヒーをいただけます。

建築の設計を手掛けたのは堀部安嗣さん。住宅建築に詳しい方にとっては超有名な現代の建築家。住宅が中心なので当サイトで触れるのは初めてですが、高知市の国指定文化財庭園『竹林寺庭園』に2016年に新たに竣工した「納骨堂」が堀部さん設計で、その作品で日本建築学会賞も受賞。

表から見た瓦葺きと切妻屋根に漆喰塗の白壁。そして全面的に木材を活かした室内――しかし醸し出す雰囲気とデザインはモダン。施工は大阪の羽根建築工房で、デザインは“和モダン”だけれど工法は全面的に日本の伝統的な工法を用いてこの鈍考は出来上がったのだとか。

そして建物に入った瞬間、窓いっぱいに目に入る檜林と緑。隣接する寺院の樹林を“借景”として活かし、現代的な風景は視界に入りこまず《時間の流れの遅い場所》に寄与する庭園。奥庭で直線的に使われている&印象的な緩やかなアプローチでも使われているのが栃木&日本の銘石「大谷石」。モダンな雰囲気を演出しつつ、作庭された庭師「庭知」伊庭知仁さん曰く、建物の中から見て風景を切り取る装置として/また庭と借景の境界をシームレスに見せる装置として据えられています。訪れた日が雨で、青みを帯びてより美しさが増す…。

建築内部に話を戻すと、本棚、カウンター、畳、そして縦横に幅も異なるストライプを見せる天井と「線」が幾重にも重なっています。それに含まれるような檜林の線と直線的な大谷石。そこに、手前にある主木(?)の桜や左右のヤマモミジの自然な樹形がアクセントとして映える。この桜は元からある古木で、少しずつ朽ちていく姿もこのお庭の《時間の流れ》を表す木として自然のまま見せる意図が。

今回、伊庭さんを含む庭師さん達と見学して話題となったのは、建物内からお庭を眺めた時、建物内の柱と軒下の柱が重ならずにズレている点。近隣にあるお庭も美しい寺院『蓮華寺』のオマージュなのでは――と盛り上がったのですが、建築側の解説では明言されていないので、果たして。雨の季節に訪れるのもオススメ、ぜひ予約の上訪れてみて。

(2025年5月訪問。以下の情報は訪問時の情報です。最新の情報は各種公式サイトをご確認ください。)

アクセス・住所 / Locations

叡山電車 三宅八幡駅より徒歩10分強
最寄りバス停は「上橋」バス停 徒歩9分

〒606-0072 京都府京都市左京区上高野掃部林町4-9 MAP

投稿者プロフィール

イトウマサトシ
イトウマサトシ
Instagram約9万フォロワーの日本庭園メディア『おにわさん』中の人。これまで足を運んで紹介した庭園の数は2,000以上。執筆・お仕事のご依頼も受け付けています!ご連絡はSNSのDMよりお願いいたします。
PICK UP - TOUR / EVENT
MEDIA / COLUMN
最新の庭園情報は約10万人がフォローする
【おにわさん】のSNSから。