大棟山美術博物館

大棟山美術博物館（旧村山邸庭園）について

【冬季・積雪期間休業】
「大棟山美術博物館」（だいとうざんびじゅつはくぶつかん）は国際芸術祭『大地の芸術祭 越後妻有トリエンナーレ』の開催地域として、また日本三大温泉にも挙げられる「松之山温泉」で知られる十日町・松之山エリアにある博物館。
新潟県で700年以上の歴史を持つ旧家「村山家」のお屋敷に開かれたハウス・ミュージアムで、その近代和風建築が「旧村山家主屋・表門」として十日町指定文化財で日本庭園も残ります。昭和の人気作家・坂口安吾もたびたび訪れ、館内には『坂口安吾記念館』も。

当サイトで「まだあまり知られていない名庭園」として挙げる事が多い、新潟の国指定文化財庭園『貞観園』。その当主「村山家」の邸宅・庭園が新潟県内にもう一ヶ所あります。それがこの「大棟山美術博物館」。
十日町市松之山支所から程近くに位置し、国道353号線から続く長い杉並木のアプローチが貞観園と同じような“ミステリアス”な雰囲気を醸します…。（お屋敷を囲う堀も貞観園みたい）

その歴史について。平安時代または鎌倉時代に信濃源氏から発祥したとされる村山家、初代の村山万五郎正実から数えて現在のご当主は32代目。
代々この松之山の地で庄屋や名主を務められた村山家。江戸時代初期、時の当主・村山善右衛門正信が松之山の地を弟の村山庄左衛門正高に譲り、移住した高柳町岡野町に後に造営されたのが『貞観園』。

松之山の村山家もそのまま続きますが、明治時代に村山政栄が高柳町の村山家から入り中興し29代目当主に。1988年（平成元年）31代目当主・村山政光さんにより博物館として公開が始まりました。

文化財となっている主屋は江戸時代中期、1755年（宝暦5年）の火災後に建築された庄屋屋敷をベースとして、明治・大正時代、昭和時代中期と時代ごとに増築されたもの（表門は大正時代）。主屋の傍に建つ煙突が家業の一つ・造り酒屋「越の露醸造」だった時代の面影を残します。

また展示室となっている室内は、玄関〜土間は農家風ですが、主座敷や2階の和室などは銘木や凝った欄間・欄干の意匠が多数。そしてギヤマンがはめ込まれた洋風のガラス窓もある、一部和洋折衷な近代和風建築。（外観も農家建築にググっと一部だけモダンなコンクリート造がはめ込まれた感じになっている、珍しい建築！）

館内では村山家の歴史を伝える各種資料・調度品ほか、29代目・30代目がコレクションした美術工芸品（近代日本画家・下村観山の作品も）、村山家（分家）から宮内庁侍医長を務めた村山浩一氏の遺品の一部が展示。

そして昭和を代表する文人のひとり・坂口安吾が滞在時に使っていた部屋を『安吾の部屋』として、作品やゆかりの品と共に公開されています。安吾の叔母と姉が村山家に嫁いだという親戚関係にあり、この地で過ごした日々を元に松之山を舞台にした小説『黒谷村』『不連続殺人事件』『逃げたい心』などが描かれました。坂口安吾原作の映画『白痴』ではこの屋敷がロケ地となり若かりし浅野忠信さんが訪れたことも。

主屋の南側に2つの池泉を中心とした池泉回遊式庭園があります。作庭年代は不明ですが、庭園に面した主座敷が整えられた近代の作庭？主座敷から見て右手奥には地形・斜面を活かした大きな滝もあり、苔むした姿も歴史やスケール、ポテンシャルを感じさせる一方で——ローカルな私設博物館が広い庭園を維持し続けることの難しさも感じる所も。
館内には平成3年に描かれた「往時の村山邸＋庭園」の絵画があるのですが、かつてはもう一つ大きな池泉と滝があった様子で、池の周囲には3・4つお茶室やお堂があったようで、『貞観園』に決して負けない庭園がそこにはあったはず——

そんな二度の中越地震にも耐えてきたお屋敷ですが、2024年の能登半島地震では室内の漆喰が大きく剥がれ落ちるなど多大なる被害が。その後修復が進み、2024年度も開館中ですが、私設の文化財施設の置かれた状況の難しさには変わりない——（クラウドファンディングも実施。クラファン始まる前に紹介できればよりよかったけど…）

大棟山美術博物館の入口に湧き出している「柳清水」と松之山産の酒米で造られた純米吟醸酒「越の露」はかつて坂口安吾も好んだお酒で、安吾直筆の書をラベルにした復刻「越の露」が館内では販売されています。『大地の芸術祭』の作品は無いけれど、その空間も一つのアート。大地の芸術祭を訪れる方にも一人でも多く訪れて欲しい…！

（2022年10月訪問。以下の情報は訪問時の情報です。最新の情報は各種公式サイトをご確認ください。）