浮世絵コレクションで有名な実業家・原安三郎の別荘“松籟荘”に作庭された日本庭園。近代別荘建築の面影を残す茅ヶ崎市美術館や茶室“松籟庵”も。
高砂緑地(旧原別荘・松籟荘)日本庭園/松籟庵について
「高砂緑地」(たかさごりょくち)はJR茅ヶ崎駅から南へ約200メートル、茅ヶ崎海岸・サザンビーチ茅ヶ崎への道すがらにある緑地公園。
明治時代には俳優・川上音二郎、川上貞奴夫妻の別荘“萬松園”、大正時代からは実業家・原安三郎の別荘“松籟荘”があった場所で、園内に残る日本庭園は松籟荘(旧原別荘)の時代に作庭された近代の日本庭園。『茅ヶ崎市美術館』『茅ヶ崎市立図書館』や茶室“松籟庵”があります。
2021年10月の関東アウェーの際、ずっと泊まりたかった文化財宿『茅ヶ崎館』とともに初訪問。
近代に海沿いの別荘地・保養地として発展した茅ヶ崎。“オッペケペー節”が有名な川上音二郎と川上貞奴の夫妻がこの場所に別荘を構えたのは1902年(明治35年)頃。
その後、川上別荘を含むこの一帯を実業家・原安三郎が購入し、1931年(昭和6年)に石井義弘設計の南欧風の近代別荘建築と日本庭園を造営。
東洋火災海上保険(現・セコム損害保険)や日本化薬で会長を務め、当時の日本財界の重鎮でもあった原安三郎は生前に約2,000点に及ぶ浮世絵を収集、歌川広重・葛飾北斎の作品を含む“原安三郎コレクション”は日本各地の美術館の企画展で紹介されています。
その後1984年(昭和59年)に茅ヶ崎市が敷地を購入し緑地公園として公開される形になった一方で、松籟荘の主屋は老朽化により取り壊しに。1998年(平成10年)に開館した『茅ヶ崎市美術館』のアプローチの巨石や奇石、コンクリート塀、レンガの土台…などが旧原別荘時代の面影を残しています。
邸宅は取り壊されたものの、園内の日本庭園は旧原別荘時代に作庭された庭園がほぼそのまま活かされたもの。現在の庭門から一番遠い所、現在の美術館(かつての洋館)寄りに立派な滝石組が残り、そこから水の流れを通じて中央の池泉へと通じる、池泉回遊式庭園。(関東住まいの頃は茅ヶ崎駅の近くに近代の日本庭園があるって気づいてなかったな~…。)
また園内に点在する石灯籠も旧原別荘の時代から残るもので、原安三郎が政財界の仲間から贈られたもの。中には由緒あるものもありそうだなあ。そして書院“松籟庵”から正面にある築山の上には国宝の奈良『薬師寺』三重塔の1/10スケールで模した塔も。その背後の松林が海沿いの景勝地といった趣き!
庭園内にある茶室と書院“松籟庵”は全国的なスーパーマーケットチェーンだった『長崎屋』の創業者・岩田孝八が茅ヶ崎市に寄贈した資金により1991年(平成3年)に竣工・開館した和風建築。茶室は裏千家の代表的茶室“又隠”と表千家不審菴の“松風楼”の写しで、市民向けの貸し茶室として運営されています。なので利用者以外は茶室内は見られないけど、秋には呈茶席やそれにあわせた庭園ライトアップも。
なお前述通り『松籟荘』の建築は取り壊され現存していませんが、その一部が『神奈川県藤沢土木事務所 汐見台庁舎』の“なぎさギャラリー”に移築・復元されています。そちらもあわせてチェック!
(2021年10月訪問。以下の情報は訪問時の情報です。最新の情報は各種公式サイトをご確認ください。)