浜松では貴重な国登録有形文化財の近代和風建築の料亭(要予約)に残る、江戸時代に気賀陣屋に作庭された庭園。
吉野屋庭園について
【要予約】
「吉野屋」(よしのや)は東海道の脇街道“姫街道”の宿場町・気賀宿や気賀関所跡から程近くにある料亭。昭和初期に建てられた主屋・北棟・南棟・東棟の4棟が国登録有形文化財となっており、その中央にある池泉回遊式庭園は江戸時代にこの地にあった気賀陣屋の庭園とも言われます。
国指定名勝『龍潭寺庭園』から約2kmほどの距離。龍潭寺や実相寺を目的にこれまでも何度か訪れていた気賀ですが、日本庭園のある料理店がある――とは誰かから聞いていて。2020年、龍潭寺へ足を運んだ後に2度伺いました!12月にはお食事もいただきました。(なお予約制の料亭なので、メニューについては公式サイトでご確認ください。)
この場所には元は『実相寺庭園』の説明でも登場する、当地を治めた旗本・近藤家の陣屋があったそう。庭園内の碑に“近藤氏流球蘭試植池旧跡”と書かれていて――文章がちょっと読み取りづらいのですが、近藤氏が豊後から青莚表の苗を持ち帰り(拝領し?)、遠州でも生産することを奨励したと。
豊後と青むしろの関連性がピンと来なかったけど、なんと大分県には“豊後表”という青むしろの生産と発展に携わった人たちをまつる『豊後表/青筵神社』という神社があった!
その後、大正時代には気賀町長を務めた野末邑次郎が「吉野屋」の屋号でお店を開業、後に板前を務めていた野島勘作にお店ごと譲渡。この野島家に生まれたのが、日本画家・野島青茲。昭和中期の国宝保存会で法隆寺の壁画の模写などにも携わった画家で、例年GWには吉野屋で作品の展示会が現在も催されているそうです。
またその縁なのかは不明ですが、東京に『書道博物館』を残した近代の名書家・中村不折の書も。
現在も残る4棟の近代和風建築はその後の昭和初期に旅館として建設されたもの。中でも目を引くのは茅葺屋根の“北棟”(日の出の間・萩の間)。浜松にこんな近代の山荘風の建物があるとは知らなかった…!
浜松は太平洋戦争の空襲で市内の多くが焼き尽くされ、古い建築や家屋はほとんど残っていない現代的な街。気賀は元は浜松ではないと言えばそうだけど…、これは浜松にとってとても貴重な近代和風建築だと思います。未来に引き継がれていってほしい。
庭園は「建物と同じ時に作庭されたものかな…」と思っていたけど、浜松市の文化財課の議事録を見てたら“江戸時代の気賀陣屋の庭園”という一文を発見。庭園が先にあり、4棟の建築は元あった庭園に対し“どの建物からもお庭が眺められるように”と四方に配されたみたい。
すなわち吉野屋は(位置的のことじゃなく意味合いとして)中心になっているのは文化財となっている建物よりも、実は庭園なのだと思う。
作庭者は現段階では不明なのですが、現在お手入れに入られているのは昭和の名作庭家・中根金作の設立した『中根庭園研究所』で修行をされていた植木屋さん・栽松軒さん。
また、ご主人による「吉野屋のおやじ」ブログは毎日更新されています。ぜひ庭園や文化財を愛する多くの方に、お庭を眺めながらお食事を味わってほしい。
*2020年12月の模様は、『おにわさんと行く!遠州のお寺と庭園巡り【龍潭寺・吉野屋編】』(ジェンヌちゃんねる)や女優・熊谷真実さん公式チャンネルで紹介されています。
(2020年2月・12月訪問。以下の情報は訪問時の情報です。最新の情報は各種公式サイトをご確認ください。)
アクセス・住所 / Locations
天竜浜名湖鉄道 気賀駅より徒歩6分
JR浜松駅より路線バス・気賀駅行「国民宿舎入口」バス停下車 徒歩2分
〒431-1305 静岡県浜松市北区細江町気賀904-1 MAP