茶畑と武雄のシンボル・御船山の借景のスケールが唯一無二。“足立美術館”の庭園が有名な作庭家・中根金作が昭和時代に手掛けた、九州の隠れた名庭園。
慧洲園・陽光美術館について
「陽光美術館」(ようこうびじゅつかん)は人気温泉地「武雄温泉」のシンボル・御船山の麓にある私設美術館。日本庭園『慧洲園』(けいしゅんえん)は『足立美術館』の庭園の作者で昭和~平成を代表する作庭家・中根金作による作庭。まだ足立美術館と比べると知名度は劣るかもしれませんが、“借景”のスケールは足立美術館以上!これから「九州の名庭園」として評価を得ていくであろう現代の日本庭園です。
2024年に数年ぶりに訪れたので改めて紹介。
西九州新幹線・武雄温泉駅からもその姿がのぞめる、武雄市のシンボル的存在「御船山」。その名の由来は古代に神功皇后が新羅へ遠征した帰りに御船をつなぐ場とされたからとか。 そんな御船山の麓に江戸時代に造営されたのが、武雄鍋島家(佐賀藩主・鍋島家の家老)の別邸をルーツに持つ国の文化財庭園『御船山楽園』。そこから徒歩10分弱、駅から見ると手前に位置するのが陽光美術館。
1996年(平成8年)に開館した陽光美術館。主な収蔵品は中国の古陶磁器(元・明・清の時代のもの等)ですが、横山大観の作品など近代日本画も一部所蔵。日本磁器発祥の地である佐賀で、日中文化交流の懸け橋になることをコンセプトに、中国古陶磁器の他にも日本の「人間国宝」中島宏さん、近代・柿右衛門(酒井田柿右衛門)さん等の作品が企画展示されています。
そして運営は美術館ながら、美術館の展示棟の10倍以上?3,000坪の広さをほこるのが庭園『慧洲園』。こちらは現在の美術館より歴史が古く、前身施設の庭園として1979年(昭和54年)に作庭されたもの。
錦鯉の泳ぐ池泉に滝、瀑布も美しいけれど、そのデザイン的な特徴はなんと言っても茶畑を活かした築山と御船山の借景。御船山の存在だけでも「スケール半端ないって!」なのに、その姿を模した様なお茶の木の段々畑、更にその手前には芝生の築山をもうけて三段階の姿の変化を演出。
御船山、この地の名産「嬉野茶」の茶畑を活かした庭園――でもあり、中根金作の出身地・静岡県の茶畑と富士山を表現したかのような風景でもあり。日本庭園の代表的な様式「池泉回遊式庭園」であっても、完全に『ここにしかない、この地ならでは、この人ならでは』の素晴らしい庭園。
春には新緑や花咲くツツジ群、秋には紅葉も美しい庭園――ですが、このデザインだけでご飯三杯いける!(池を渡った先の枯山水の石組み~築山~借景の雰囲気は『足立美術館』の枯山水庭と少し似てる?)
美術館から見た借景の茶畑+その南側にも茶畑があり、南部の茶畑には“ランドスケープの国宝”特別史跡・吉野ヶ里遺跡から移築された「物見櫓」の姿も。そんな貴重な物見櫓には実際に登って庭園を一望することもできます。…庭園の池泉の姿は見えないけれど、モミジ林を一望できるので秋には紅葉と茶畑の組み合わせが味わえる。
茶畑からその姿を見下ろせる数寄屋風の和風建築『みふね茶屋』は土日祝日+紅葉時期に営業。大きな山を登り終えた後に一息つくことができます。
隣接する『武雄センチュリーホテル』は近年しばらく閉館していたそうですが、2025年より再開予定とのこと。また近年は『御船山楽園』と共にチームラボによるライトアップの会場にもなりました。西九州新幹線の旅の途中にもぜひ訪れてみて。
(2015年11月、2018年10月、2024年4月訪問。以下の情報は訪問時の情報です。最新の情報は各種公式サイトをご確認ください。)