後山山荘庭園

Ushiroyama Sanso Villa Garden, Fukuyama, Hiroshima

鞆の浦の絶景が目の前の別荘建築…京都“聴竹居”の藤井厚二設計の建築/庭園が、現代建築家・前田圭介(UID)と職人/造園家・荻野寿也と学生WSにより再生。

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後山山荘庭園について

【通常非公開/年に数日特別公開あり】
「後山山荘」(うしろやまさんそう)は“ランドスケープの国指定重要文化財”「国指定名勝」の景観『鞆の浦』(鞆公園)を一望する別荘建築。京都の重要文化財『聴竹居』で知られる近代の建築家・藤井厚二が約100年前に手掛け、現代の建築家・前田圭介(UID)により平成年代に再生。藤井厚二自身がデザインした庭園も現代の作庭家・荻野寿也景観設計により修復/再生されました。

現在も個人の住宅のため通常非公開ですが、春・秋を中心に年に数日公開されます。日程は公式サイトをご確認ください(その際も見学希望日の2週間前までに要事前予約)。
また、見学の際も【建築内部の撮影は不可】。ここでは許可をいただき建築内部の写真も紹介させていただきます。

江戸時代に形成された古い町並みの残る景勝地は2017年に国の重要伝統的建造物群保存地区にも選定され、ジブリ映画『崖の上のポニョ』の舞台(モデル)にもなった「鞆の浦」。その代表的なビュースポットの一つが鞆の浦の背後にそびえる「後山」の中腹にある『医王寺』。福島正則や福山藩主ゆかりの寺院で、「仙酔島」と瀬戸内海の美しい景観が楽しめます。

そんな医王寺の程近くの高台に位置するのが通常非公開の別荘建築「後山山荘」——いやもう、ここまでの情報と写真だけでももう素晴らしさしか想像できなくない!?で、「景観」と「建築」は勿論ですが、後山山荘での注目ポイントは藤井厚二自身の庭園観でもってこの高台に山の水を活かした日本庭園が作庭されていること!(これが聴竹居とも異なりここにしかない点)

江戸時代から福山城下で御用商人となり豪商と呼ばれた「くろがねや」藤井家の次男として生まれた藤井厚二。彼自身は建築の道へと進みますが、家督を継いだ兄・藤井与一右衛門(十三代目)の『鞆別荘』として1920年代後半(大正時代末期〜昭和時代初期)に設計〜造営されたのがこの後山山荘。

近代以降も銀行や紡績会社を経営し、広島県東部の有力な財界人となった藤井家。与一右衛門は“聴泉”の雅号を持つ数寄者/文化人としても名を馳せ、広島県内では尾道の文化財庭園『爽籟軒庭園』の橋本家とも並び称されたとか。与一右衛門が後山山荘での四季と風景を詠んだ漢詩『鞆八景三題』は建築・庭園再生のヒントにもなったとか。

そんな別荘も戦後は空き家となり、長い間人の手が入らない状態に。2009年に現オーナーが尋ねた時には大部分が倒壊し廃屋同然になっていたそう。藤井と同じ福山市出身の建築家・前田圭介(UID)さんとの出会い・対話も経て、新たな別荘の新築ではなく「建物の再生」へと舵を切り2009年〜2013年の4年を掛けて山荘が「再生」されました。(その出会い・対話の詳細は公式サイトの『後山山荘再生物語』を見てほしい)

藤井厚二による当初の設計(間取り)、独特のダブルルーフや『聴竹居』でも見られる眺望の素晴らしいサンルームが当時の姿を残している一方で(自然換気システムも)、痛みの激しかった母屋部分は利用可能な古材のみ再利用しながら装いを新たに。なので、現在の姿は「藤井厚二の作品を復元」ではなく「藤井厚二と前田圭介さんの合作」と言うのが正しい。

「現代和風建築」としても、玄関から大きなガラスで外の景色が味わえ、仙酔島をのぞむリビングもかつての縁側はなく現代建築らしいデザイン(実際に見て欲しい…)。なおガラス戸や一部の建具、襖絵等は当時のもの、蔵の漆喰も元と同じ色にすべく様々な試みの末に施工されたものと各所で「近代」「現代」の技術や価値観/デザインが混ざり合っている。

そして山手側に広がる日本庭園、こちらも藤井厚二のデザイン。『聴竹居』はお庭はあるけど“日本庭園”と言った趣とは少し違うし、他の個人邸も庭園は他者のデザイン(作庭)だったりする。ので、「藤井厚二作庭の日本庭園」としては物凄く貴重な庭園!(※自邸の聴竹居が自分好みで、後山山荘は数寄者だった兄と対話しながらデザインした…のでしょうきっと)

山に群生するモミジが主役の庭園で、奥には『鞆八景』にも詠まれた禽浴(きんよく)の滝が。その滝から流れ落ちる水は中の島を囲むようにカーブを描く小川が流れてゆく。メジャーな形式で言うなら「池泉回遊式庭園」なのだけれど、藤井自身もその中に居た「阪神間モダニズム」の和風建築で多い「流水式庭園」といった感じも。
しかしそんな庭園も2009年時点では土に埋もれた状態。造園家・萩野寿也さん指導の下、全国から集まった学生さんらによるワークショップで現在の姿へと再生、滝や流れも復活しました。庭園上段からの鞆の浦の眺めがまた絶景…!

一つ一つの積み重ねで再生された名建築とそこからの眺望——を、後世にも語り継ぐべく、現役の個人別荘ながらも「後山山荘倶楽部」の協力の下でこの様な特別公開や地域の方の音楽会・ギャラリーと言った形でも活用されています。公式サイトの『後山山荘再生物語』もチェック!

(2024年5月訪問。以下の情報は訪問時の情報です。最新の情報は各種公式サイトをご確認ください。)

アクセス・住所 / Locations

JR山陽新幹線 福山駅より路線バス「鞆の浦」バス停下車 徒歩10分

〒720-0202 広島県福山市鞆町1382 MAP

投稿者プロフィール

イトウマサトシ
イトウマサトシ
Instagram約9万フォロワーの日本庭園メディア『おにわさん』中の人。これまで足を運んで紹介した庭園の数は2,000以上。執筆・お仕事のご依頼も受け付けています!ご連絡はSNSのDMよりお願いいたします。
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