荻外荘(近衞文麿旧宅)

Tekigaiso Park Garden, Suginami-ku, Tokyo

昭和時代の首相・近衛文麿が日本の政治を動かした旧邸が2024年から公開…近代日本の代表的建築家・伊東忠太の近代和風建築やお庭、カフェも。国指定史跡。

庭園フォトギャラリーGarden Photo Gallery

荻外荘(近衞文麿旧宅)庭園について

「荻外荘」(てきがいそう)は東京都杉並区に残る、昭和時代前期に内閣総理大臣を3度務めた近衛文麿の旧別邸。「荻外荘(近衛文麿旧宅)」の指定名で国指定文化財(史跡)。敷地の一部(現在の芝生広場)が『荻外荘公園』として2015年より公開されていましたが、旧邸も建築の復原・整備を経て2024年より公開が開始されました。

荻窪駅から南へ徒歩10分程。幹線道路の青梅街道&環八から程よく距離があり、善福寺川への緩やかな登り降りのあるこの一帯は現在も閑静な住宅街ですが、現『大田黒公園』(旧大田黒元雄邸)、現『角川庭園』(旧角川家住宅)などが残るお屋敷街でもあります。そんな大田黒公園、角川庭園と共に“荻窪三庭園”として、最も近年公開が始まったのが荻外荘。

その歴史について。公家「近衛家」出身で、昭和の戦前に何度も首相の重責を担った政治家・近衛文麿。氏は1937年(昭和12年)にこの邸宅を購入、1945年の太平洋戦争終戦後にこの邸宅内で自決し亡くなるまでの8年間を過ごしました。

都心から離れたこのお屋敷は生活・休息の場…のみならず、この場に大臣を呼び寄せて会議が開かれ、日本の政治・外交を左右する場にもなりました(東條英機・松岡洋右らを呼んだ1940年『荻窪会談』、1941年『荻外荘会談』など)。建築の有形文化財の指定ではなく「史跡」として文化財指定されているのはそんな歴史の側面があるため。(※なお今後、建築も重要文化財を目指す最中だそうです)

で、このお屋敷を造営したのは近衛文麿ではなく、その前の所有者・入澤達吉(大正天皇侍医/宮内省侍医頭)。氏が親戚関係だった近代の日本を代表する建築家・伊東忠太に設計を依頼し、1927年(昭和2年)に竣工。尚、その設計には伊東忠太の弟子・金子清吉も関わっているとか。
その後客人として訪れた近衛文麿がこのお屋敷を気に入り購入。「荻外荘」の名は近衛の所有になった後に西園寺公望によって命名されたもの。また近衛文麿の没後は、こちらも昭和時代に複数回内閣総理大臣をつとめた吉田茂が一時期(一年ほど)この邸宅で過ごしたそう。

昭和時代中期、1960年には建築の一部(玄関棟・客間棟)が都内の別の場所(豊島区)に移築されますが、今回の復元・整備にあたり杉並区が再取得しこの地に移築・復原。それ以外の建築や敷地は2014年に杉並区が取得、以来約10年間に渡って(先行した公園の開園なども含め)整備が続けられ今日の公開に至りました!

『荻窪会談』の場となった豪華絢爛な洋風の客間、近衛文麿が最後を迎えた数寄屋風の書斎、そして“近代和風建築”の中でも格の違いを見せつけてくるかの様な、菱形をあしらった広縁のガラス戸などなど…。素晴らしい古いお屋敷は各地にありますが、東京都内で、かつこれだけの要人のお屋敷が一般公開されること自体が本当に貴重。

庭園について。元の主庭園は『荻外荘公園』として先行開放が始まった芝生広場の部分で、かつてはこの広場に池泉庭園がありました(→杉並区の公式サイトに当時の写真があります)。埋められたのは1960年代で既に50年以上経ちますが、芝生中央部の井戸や屋敷から見て右手側の高木、そして屋敷に近い部分の斜面の植え込みに当時の面影が感じられます。

主庭園と比べて、当時から変わっていない、近代〜昭和時代初期・中期の雰囲気が感じられるのは玄関前の受付周辺の園路。赤い小石が埋め込まれた石畳(延段)もすごくかっこいいけれど、これは今回に合わせて整備されたもの…?(なんだか歴史を感じる)
荻外荘は見学のみも可能ですが、奥の別棟を活用したカフェ・スペースもあります(その前にも新しいお庭が)。ぜひ利用してみて。

(2025年5月訪問。以下の情報は訪問時の情報です。最新の情報は各種公式サイトをご確認ください。)

アクセス・住所 / Locations

JR中央線・東京メトロ丸の内線 荻窪駅より徒歩10分

〒167-0051 東京都杉並区荻窪2丁目43-36 MAP

投稿者プロフィール

イトウマサトシ
イトウマサトシ
Instagram約9万フォロワーの日本庭園メディア『おにわさん』中の人。これまで足を運んで紹介した庭園の数は2,000以上。執筆・お仕事のご依頼も受け付けています!ご連絡はSNSのDMよりお願いいたします。
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