近代の名工による鎌倉の実業家の旧邸“冬青庵”の前に世界的美術家・杉本博司/新素材研究所が新たに作庭した、志水晴児の彫刻作品が主役のモダンな枯山水庭園。
素透撫 stoveについて
【レストランは完全予約制】
「素透撫 stove」(すとうぶ)は『清春芸術村』に隣接するフレンチレストラン。その和風建築は、内装・庭園は現在美術家・杉本博司+建築家・榊田倫之による新素材研究所によって手掛けられています。
2024年、15年ぶりに清春芸術村へ。そこで隣にこんなレストランがオープンしている事に気づいた…。レストランは3日前迄の完全予約制。改めて予約して訪れたいのですが、前庭の枯山水がとてもカッコよかったのでそれだけでも先に紹介…!
1992年に清春芸術村に移築され「冬青庵」と名付けられたこの和風建築。元は岩波書店の会長もつとめた実業家兼文人/画家・小林勇が戦前(1941年頃)に鎌倉に構えていた旧宅。小林は『清春白樺美術館』を創設した「吉井画廊」の吉井長三とも親交が深く(小林の個展を吉井画廊で開催した事も)、美術館の創設にも協力した人物でもあります。また号の「冬青」は小説家・幸田露伴の命名で、「冬青庵」の名もそれが由来。
この和風建築を当初手掛けた大工棟梁・山田源市は近代に横浜/鎌倉/東京を中心に実業家・文化人の住宅を多く手掛けた名工で、『三渓園』を含む原富太郎(原三溪)、島崎藤村、和辻哲郎らの邸宅にも携わりました。
南アルプスの自然の恵みを活かしたオーガニック食材を中心とした創作フランス料理店として2013年にオープン。「素透撫 stove」という店名は杉本博司さんによる命名で、《素材を透明になるまで撫でるように慈しむ》という意味が込められているとか。
そして。前庭としてモダンな枯山水庭園が作庭されたのは2021年12月のこと。『江之浦測候所』や『茶洒 金田中』でも多く用いられている新素研の庭園の代名詞とも言える平たい「根府川石」がレストランへの道を表現しながら(※歩くことはできません)、その傍らにある鳥を羽を広げた様な彫刻がとてもカッコいい——
それもそのはず、この彫刻作品こそこの庭園の中心。かつて丹下健三が設計した東京の電通築地ビル(旧電通本社ビル)の庭園を設計した彫刻家・志水晴児が残した作品で、ビルと共に解体されそうになった所、ご遺族から相談を受けた現代アートギャラリー「hiromiyoshii」の吉井仁実さんが清春芸術村への移築を決断。
視点を変えながらこの彫刻を鑑賞することを意図した石庭で、その周りには桜の木が植わり春にはピンクの花で彩られます。
築地/銀座の都会のコンクリートに囲まれていた頃とは全く別の意味や命が吹き込まれたかのような彫刻の姿は、「そういえば見たことがある」人こそ感動を覚えるかもしれない——。オススメ!
(2024年9月訪問。以下の情報は訪問時の情報です。最新の情報は各種公式サイトをご確認ください。)