柴田氏庭園「甘棠園」

Shibata-shi Garden "Kantonen", Tsuruga, Fukui

2023年に修復を終え美しい姿に!小浜藩主が度々訪れた、“敦賀富士”野坂山の借景が美しい国指定文化財の庭園“甘棠園”。その設計は狩野探幽に依頼とも?

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柴田氏庭園「甘棠園」について

「柴田氏庭園」(しばたしていえん)は福井県敦賀市にある国指定文化財(国指定名勝)の庭園。小浜藩の豪農・柴田氏(柴田権右衛門)が江戸時代前期に造営し、小浜藩主も度々訪れたお屋敷で、その建築は「甘棠館」(かんとうかん)、庭園は「甘棠園」(かんとうえん)と呼ばれ、その設計は狩野探幽に依頼したとも伝わります。またその敷地は「柴田氏甘棠館屋敷跡」として敦賀市指定史跡、甘棠園のヤマモモ・クスノキが敦賀市指定天然記念物。

長らく江戸時代の建築・庭園の修復工事が行われていましたが、北陸新幹線の敦賀駅延伸に先駆けて2023年に修復が完了。2025年に久々に訪れたので写真を更新して紹介。

その歴史について。この庭園のある市野々町は、現在は広い県道も通り、大型店舗も近くにある市街地の一角ですが、江戸時代以前は洪水によって荒れ果てていたとか。江戸時代初めにこの地で新田開発を小浜藩(当時の藩主は京極氏)から請け負ったのが初代・柴田権右衛門光有。江戸時代を通じてこの一帯(市野々村)を治める豪農となりました。

その新田開発が軌道に乗った頃に造営が始まったのがこのお屋敷。元禄年間(1688年〜)に作庭されたのが国指定名勝の庭園、そして敷地中央に立つ書院はその後の正徳年間(1711年〜)に建築され、江戸時代後期の文化年間(1805年)に建て替えられたもの。また庭園に先駆けて、現在もお屋敷を囲むお堀(環濠)が整備されました。表門から玄関までの距離(その敷地の広さ)が往時の繁栄を感じさせる…(冠木門の前には、現在の上皇さまのご訪問を記念したイチイの植樹も)。

小浜藩主を迎える為に整備され、参勤交代の際など度々休憩に立ち寄ったこの書院建築、庭園に面する主座敷には上段の間があり、上段の間からはこの庭園の見どころの一つ、“敦賀富士”こと野坂山を借景として正面にのぞむことができます。上段の間の欄間には小浜藩主・酒井家の定紋が透かされているほか、松の間・亀の間の間の欄間の彫刻・意匠もめちゃくちゃかっこいい!

庭園について。先述通り、建物内から野坂山の借景が楽しめる鑑賞式庭園としての性質もありつつも、その池の周りを巡る園路も整備されている“築山回遊式林泉庭園”。池の奥に築山と滝石組が設けられ、右手側に中島と橋、手前にはきれいな洲浜もしつらえられています。この池泉、建物内から見える範囲はそこまで広くない…ように感じられるのですが、先に整えられていたお堀をそのまま庭園に活かしているので、歩いてみると実は広い!

この庭園に関して、以前の説明看板やパンフレットには《狩野探幽に地割設計を依頼し、1688年以降、小堀遠州により築庭されたと伝えられる》という記述もありました。もっとも元禄年間には両名とも亡くなられているので最新の看板からは両名の記述はなくなっているけれど、1670年代まで活動されていた狩野探幽に「依頼した」のは本当だったのかもなぁ…とも思ったり。(当時、小浜と越前は別の藩だけれど、福井には越前狩野派という流派も)

お庭に植わっている敦賀市指定天然記念物のヤマモモ・クスノキについて。ヤマモモの木=甘棠の木は甘棠園の名前の由来の樹種であり、クスノキは柴田氏が楠木正成の子孫を名乗ったことにちなんでいるそう。

敦賀市は比較的狭い範囲に2つの国指定名勝庭園がある(もう一箇所は『西福寺書院庭園』)ので、庭園巡り旅には良い街…(更には『気比の松原』も)。北陸新幹線の乗換のついでにぜひ観光してみて。

(2014年8月、2019年3月、2025年6月訪問。以下の情報は訪問時の情報です。最新の情報は各種公式サイトをご確認ください。)

アクセス・住所 / Locations

JR北陸新幹線 敦賀駅より約4km(敦賀駅前にシェアサイクルあり)
JR小浜線 西敦賀駅より約2.5km(徒歩30分)
JR敦賀駅より路線バス「市野々」前下車徒歩1分(金山線)

〒914-0124 福井県敦賀市市野々町1丁目19-2 MAP

投稿者プロフィール

イトウマサトシ
イトウマサトシ
Instagram約9万フォロワーの日本庭園メディア『おにわさん』中の人。これまで足を運んで紹介した庭園の数は2,000以上。執筆・お仕事のご依頼も受け付けています!ご連絡はSNSのDMよりお願いいたします。
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