武将・塙団右衛門直之の末裔の邸宅に残る、大名茶人・松平不昧公が命名した大滝“岩浪”の庭。国指定名勝。
櫻井氏庭園(可部屋集成館)について
「可部屋集成館」(かべやしゅうせいかん)は江戸時代に“たたら製鉄”と呼ばれた製鉄業で栄え、松江藩の鉄師五家の一つだった櫻井家の美術品・古文書が収蔵/展示されている博物館。同一の敷地内にある「櫻井家住宅」は国指定重要文化財、庭園が「櫻井氏庭園」で国指定名勝。日本遺産『出雲國たたら風土記 ~鉄づくり千年が生んだ物語~』の構成文化財。
2020年秋の島根県の庭園巡り、最も行きたかった場所の一つがこちら。庭園を巡る時に優先したいと思っているのは“まだ行ったことのない国の文化財庭園”。今回の島根で言うと、松江市の『菅田庵』と2017年に国指定名勝となったばかりのこちらでした。
ただこの庭園、松江や出雲の市街地からも約50kmもある内陸部。これ公共交通機関で行けないんじゃないか…?と思ったのが、この秋の島根はレンタルスクーターで巡った最大の理由だったりする。一応後で調べたら木次線の出雲三成駅からコミュニティバスがあったので、公共交通機関で行けないわけじゃなかったけど…それでも今まで足を運んだ中で、最も“ある程度の市街地”から遠い庭園になったかもしれない…。
戦国武将・塙団右衛門(塙直之)を始祖とする櫻井家。大坂夏の陣で団右衛門が亡くなった後、その子孫は福島正則に仕えて広島に入った後、広島の内陸部の可部へ移り製鉄業をはじめ(“可部屋”の屋号はそれが由来)、そして1644年に奥出雲の現在地へと移りました。
そこから幕末にかけては松江藩の鉄師頭取をつとめ、『絲原記念館』の絲原氏らとともに“鉄山御三家”として藩の財政に貢献。そのような背景もあり、松江城から遠く離れたこの地にも藩主・松平公は何度か領内巡視で訪れました。
江戸時代中期の1738年(元文3年)築の主屋をはじめ、後座敷、釜屋、5棟の土蔵、厩の9棟が国指定重要文化財(主屋と古蔵以外は江戸後期〜幕末)。主屋の棟梁は飯石郡吉田町の藤左衛門と仁多郡三成町の吉之丞が担当。
庭園も江戸時代中期に作庭されましたが、現在見られる“岩浪”という約15mもの大滝を中心とした池泉鑑賞式庭園は1803年(享和3年)松江藩七代目藩主・松平不昧こと松平治郷公が御成の際に整備されたもの。岩浪の命名したのは不昧公で“岩浪の庭”と称されます。
地形を活かしたその滝は江戸時代の庭園では随一の大滝。そして見所は滝だけではなく座敷から正面に眺め見た山の借景も。不昧公はその山を“寿宝山”と名付けました。庭園も借景の寿宝山も、今回訪れた時期は抜群の紅葉風景!
寿宝山の手前、池の畔にある茅葺の茶室(草庵)は明治時代に画家・田能村直入が櫻井家に逗留した際に意匠を手掛けたもので、“掬掃亭”と名付けられている煎茶席。
この茶亭や道を挟んだ場所にある客殿“一丈庵”など、国重文の9棟以外にも12棟が島根県指定有形文化財。敷地には現在は櫻井家ゆかりの建造物のみが残りますが、近代までは製鉄に従事していた人たちの住居も一帯にあったとか。敷地内を流れる渓谷“観音淵”も紅葉の名所で、一帯のモミジは江戸時代に櫻井家当主が京都の高雄から持ち帰ったものなんだそう。
住宅・庭園のみの見学も可能ですが、可部屋集成館では櫻井家の古絵図や塙団右衛門に関する資料、松平不昧直筆の掛軸をはじめとした茶道具や美術品が展示されていて見応えあります。あわせてチェック!
(2020年11月訪問。以下の情報は訪問時の情報です。最新の情報は各種公式サイトをご確認ください。)
アクセス・住所 / Locations
JR木次線 出雲三成駅より奥出雲交通バス「内谷」バス停下車 徒歩7分(*バスは1.5時間に1本程度はあり。詳しくはこちら)
出雲三成駅より約15km(駅にレンタサイクルあり)
〒699-1621 島根県仁多郡奥出雲町上阿井1655 MAP