中野邸記念館“泉恵園”

Nakano House Art Museum Garden, Niigata

まだある新潟の名庭園!かつて日本一の石油産出量をほこった“日本の石油王”中野家が明治時代に建築した近代和風建築と紅葉の名所庭園。

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中野邸記念館について

【通常非公開/秋に特別公開】
「中野邸記念館」(なかのていきねんかん)は近代に“日本の石油王”と称された中野貫一・中野忠太郎の親子二代が明治時代~大正時代に造営した屋敷と広大な庭園。例年、秋の紅葉時期に特別公開やライトアップが行われます。

数年前からその存在は知っていたものの2021年11月に初めて訪れました。同じ新潟市秋葉区の『北方文化博物館』をはじめ、新潟県には《施設としては“●●庭園”とは称されないし、文化財ではないけど、素晴らしい名庭園》が幾つもあるけれど――この中野邸もそれらと肩を並べる、新潟県内の5本の指に入ってくる庭園だった!

最近でもたまにニュースになりますが、新潟市秋葉区・新津では昔から油が湧出。それを明治時代に事業化したのが、江戸時代から当地で代々大庄屋だった中野家。
こうして採掘のはじまった「新津油田」は産油量日本一をほこるまでになり、国内で消費される石油の3分の1を占める程に。それにより財を成し、「日本石油」とも肩を並べた中野家はまさに“石油王”。

しかし海外からの輸入に押される形で、新津油田での採掘は平成年代で終了。『新津油田金津鉱場跡』は国指定史跡にもなり、またその一帯は『石油の里公園』として整備、中野邸に隣接する『石油の世界館』では石油の歴史や採掘に関する技術・機器が展示されています。

そんな中野家を“石油王”へと押し上げ、衆議院議員もつとめた中野貫一とその子・中野忠太郎の代に造営されたお屋敷がこの中野邸記念館(以前は数寄者でもあった中野忠太郎が収集したコレクションを展示する『中野邸美術館』だったそう)。現在はこの建築・庭園・美術品を後世に伝える為に設立された公益財団法人により運営されています。

■邸宅
1900年(明治33年)から3年以上をかけ、地元・新潟の棟梁により建築。約250坪の中に複数ある賓客向けの応接間は洋室としての意匠を、そして庭園に面した部屋は凝った欄間など職人の技が楽しめる贅を尽くした近代和風建築。

かつては皇室からは高松宮殿下、実業家&茶人からは阪急創業者・小林一三や昭和の電力王・松永安左エ門(松永耳庵)、美術家としては北大路魯山人などのそうそうたる方々が屋敷に来訪・滞在をしました。

■主庭(1・9~11枚目)
庭園は後述の“泉恵園”等も含めて全体では約4万平方メートルありますが、ざっくり言うと建物から眺める“主庭”“中庭”と“泉恵園”、3つの庭園があります(なお庭園には含まないけど、赤石をアクセントに使い大きな石灯籠を配したアプローチもとてもかっこいい)。

邸宅の南に広がる主庭は苔の中に巨石や佐渡の赤玉石など、全国から集められた銘石が配された庭園。頭上を覆う数多くの紅葉が美しい。かつて石油の採掘場は中野邸から南側にありました(あと中野翁の援助で整備された『金津掘出神社』も)。平たい巨石はそれらへ向けた礼拝石だったのかな。

■中庭(13~18枚目)
邸宅の西側へ眺める池泉鑑賞式庭園で、こちらもカラフルな庭石と紅葉と苔が美しい…。かつてはこの庭園は邸宅の向かいにあった“新館”も含め四方から眺められる庭園だったので“中庭”と呼ばれます。

その新館は戦後の1948年(昭和23年)に東京・赤坂の『星ヶ岡茶寮』に移築。星ヶ岡茶寮と言えば、先述の北大路魯山人が経営した会員制料亭――その時代を生きていない自分にとっては伝説の料亭。

太平洋戦争の空襲で焼失した後に移築されたのがこの中野邸の新館だった、ということになる。“中野家は北大路魯山人の、星ヶ岡茶寮のパトロンだった”という程の影響力があった――と思うと、当時の中野家の凄さがわかる。

■泉恵園(20~28枚目)
そして庭園の大部分を占めるのが自然の山を活かし、明治~昭和の間の40年以上の歳月と県下一級の造園技術者を集めて作庭された“泉恵園”。

自然の山の景を活かしながら、所々に心字池や滝石組を作り、石灯籠や石塔を配した、スケールの大きな自然風庭園。園内には130種、約2000本というモミジが植えられたまさに“紅葉の名所”で、訪れたのは平日の雨の日だったけど多くの地元の人の姿が見られた(…朝は晴れてたんだけどなー…)。園内には洞窟観音や中野家の旧墓所なども。

それだけ長い期間、造園が続けられたのは。同じくかつての新潟県の大地主が造営した『孝順寺庭園』の時も書いたけど、当時の地域の失業対策の為という側面によるもの(特に田畑仕事のない冬場の就業の場として)。地元の方々自身が作った庭園を、毎年秋に楽しまれているという――地域の歴史が詰まった庭園ということでもある。

今回、蔵の中で展示されていた美術品はあんまりちゃんとチェックせずに建築と庭園ばかり見てしまったんだけど――中野邸記念館の所蔵品の中には亀田鵬斎横山大観といった有名な文人・画家のものも。先の『星ヶ岡茶寮』といい、中野家も日本の美術をパトロンとして支えた一人だった。そんな名家がこだわった庭園、ぜひ秋に見に訪れてみて。

(2021年11月訪問。以下の情報は訪問時の情報です。最新の情報は各種公式サイトをご確認ください。)

アクセス・住所 / Locations

JR信越本線 矢代田駅より徒歩25分
JR矢代田駅・新津駅よりコミュニティバス「金津・石油の里」バス停下車すぐ(*本数少ない)

〒956-0845 新潟県新潟市秋葉区金津598 MAP

投稿者プロフィール

イトウマサトシ
イトウマサトシ
Instagram約9万フォロワーの日本庭園メディア『おにわさん』中の人。これまで足を運んで紹介した庭園の数は2,000以上。執筆・お仕事のご依頼も受け付けています!ご連絡はSNSのDMよりお願いいたします。
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