民家で初の国宝(旧国宝)となった室町時代の建築に、昭和の庭園研究第一人者・森蘊が作庭した露地庭。
今西家書院について
「今西家書院」(いまにしけしょいん)は奈良の旧市街地“ならまち”の屈指の古建築。室町時代に建造されたとされる書院建築は昭和初期、国宝保存法の下で民家として初の国宝に指定されました(旧国宝。現在は国指定重要文化財)。書院から眺める苔の枯山水庭園の作庭は昭和の庭園研究の第一人者・森蘊。
2020年秋に初めて鑑賞しました。まず今西家について。国指定名勝庭園『旧大乗院庭園』からすぐ南のこの地に“春鹿”の醸造元「今西清兵衛商店」を1884年(明治17年)に創業。この書院の隣には蔵元の工場の姿がのぞめます。
そして唐破風のひさし屋根が特徴的な国重文の書院は大正時代に興福寺大乗院の防官だった福智院家から今西家が譲り受けたもの。大乗院から福智院家が賜り移築されたものと伝わります。
と、この辺が公式な情報。重文なのでもっと詳細な資料があるはずだけど…移築に関する時系列がはっきりしないので知りたい。メモ。
(1) この建築が大乗院から移築されたのは、明治の廃仏毀釈で大乗院が廃寺になったから――ではなく、江戸時代頃に福智院家が賜ったってことなんだろうか。“江戸時代に改築”された点もあるみたいだし。
(2) この場所、町名が“福智院町”。ってことは福智院家の大きな住居があったんだろうか(なおお寺としての福智院は現・今西家から東へ徒歩1分の距離にある)。
(3) とするとこの建築は「大正時代に今西家が譲り受けた」際には移築はされておらず、「今西家が隣接する福智院家の住居を手に入れた」みたいな感じなんだろうか。
庭園の作庭年代がわからないなあと思ってそんなこと考えていたんだけど。その辺を探るために奈良文化財研究所のサイトを見漁っていたら、庭園は昭和の造園家/庭園研究者・森蘊さんにより作庭されたと記されていた…!
この記事の著者:マレス・エマニュエルさんのまとめた森蘊さんに関する研究報告書『昭和の作庭記』によると1953年(昭和28年)に“今西清兵衛邸露地”を手掛けられている。その後数々の文化財庭園の修復を手掛けた氏が初期に手掛けた文化財の現場の庭園と言えます。
最初に見た時は「建築と一緒で室町時代の庭園なのかなあ」と思って――森蘊さんが修復を手掛けた室町時代の庭園で国指定名勝の『普門寺庭園』と雰囲気が似ている。決して主張の強い庭園ではないけれど、建物の歴史を引き立てる庭園であることがこの庭園が素晴らしいなーと感じる点。平庭の中で少し盛り上がっている先は、春日山や若草山の方角。
室町時代の上段の間以外にも、茶室の龍が描かれた網代編みの天井などなど見所が多い。カフェ席もあるので、奈良散策中に庭園を眺めながら少し休みたくなった時にオススメ。
(2020年11月訪問。以下の情報は訪問時の情報です。最新の情報は各種公式サイトをご確認ください。)
アクセス・住所 / Locations
近鉄奈良線 近鉄奈良駅より徒歩15分強
JR奈良線・大和路線 奈良駅より徒歩25分
※いずれも駅周辺にレンタサイクルあり
奈良駅・近鉄奈良駅より路線バス「福智院町」バス停下車 徒歩1分
〒630-8381 奈良県奈良市福智院町24-3 MAP