
近代に造営された三井財閥の別荘“平塚園”が前身…旧福岡藩主・黒田家の別邸から移築された近代和風建築に、“トロロの楠”のそびえる宮崎駿ゆかりの庭園も。
鶴巻温泉 元湯 陣屋(旧三井財閥別荘「平塚園」)庭園について
【施設利用者のみ】
「鶴巻温泉 元湯 陣屋」(つるまきおんせん もとゆ じんや)は神奈川県秦野市の鶴巻温泉で大正時代から続く老舗旅館。その前身は三井財閥の御寮(別荘)『平塚園』で、約1万坪の敷地内には庭園や数多くの和風建築(広間や客室)が点在。スタジオジブリ監督・宮崎駿ゆかりの旅館・庭園としても知られ、かつて明治天皇が滞在された貴賓室『松風の間』の庭園は近年に現代の人気庭園デザイナー・石原和幸(石原和幸デザイン研究所)により作庭(改修)されました。
1都3県で唯一「温泉」の名が付く駅、小田急線「鶴巻温泉」。掘削が始まったのは明治時代と温泉郷としての歴史は比較的新しいものの、大山・阿夫利神社を参拝する大山詣りの参拝客や東京方面からの旅客によって賑わうようになりました。
その鶴巻温泉でも最も格式ある旅館が「陣屋」(通称・陣屋旅館)。宿泊はウン万円から…という高級旅館ですが、日帰りプラン(お食事)で2024年初めて訪れましたので、その庭園を紹介!
その歴史について。1918年(大正7年)に三井財閥の御寮(別荘)『平塚園』として造営(その後、大正時代の終わり頃から旅館に)。
鶴巻温泉の真南に位置する大磯は近代には数多くの政治家・実業家の別荘があり(→『明治大磯記念邸園』)、三井財閥がそんな要人らを接待する為に造営されました。なお大磯には三井家の別邸も(→『大磯城山公園』)(※真南、と言っても10km程度は離れていますが)。また、その建築は大磯にあった旧福岡藩主・黒田侯爵家の別邸を移築したもので、冒頭の通り明治天皇がご滞在された部屋も「陣屋」に移されています。
更に歴史をさかのぼると、鎌倉時代には鎌倉幕府の武将/御家人で源頼朝の側近だった和田義盛がこの地に陣屋を構えていたとか。旅館の名前もそれが由来で、敷地内には和田一族の末裔が明治時代に奉納した『伏見稲荷』の分身を祀るお社も(湯の上稲荷)。
そして現代では宮崎駿さんゆかりの旅館としても知られます(各所にサインやイラストが)。宮崎駿さんの叔父で実業家の二代目宮崎富次郎が旅館を買収。宮崎駿少年もこの陣屋にたびたび訪れ、この庭園の景観や自然が宮崎作品に影響を与えたとも。中でも入口から程近くにある巨木の楠は「となりのトトロ」から「トトロの木」と名付けられています。
先述の明治天皇の行在所だった貴賓室『松風の間』…は限られた方しか利用できませんが(宿泊など。また将棋・囲碁のタイトル戦の会場としても300戦以上用いられています)、お食事の場となる大広間「竹河の間」「富月殿」も豪華な作りの近代和風建築——。(※三井財閥別荘時代からの建築かは不明…)
その2棟と池泉庭園を挟んだ先にある「源氏館」も江戸時代の和風建築をこの地に移築、改修したものだそうで、ブライダルの際の披露宴会場として用いられているそう。
それら大広間に加えて、「雅の間」「狩鞍庵」、16の客室と和の建築が広い敷地に連なっていますが、約1万坪という敷地の多くは緑に包まれています。
■竹河の間・富月殿〜庭園(6〜16枚目)
主庭園と言えるのは「竹河の間」「富月殿」に面した、噴水のある池泉回遊式庭園。竹河の間には現在はウッドデッキがもうけられ、その間から迫力あるモミジとマツが姿を見せています。
■源氏館〜庭園(17〜23枚目)
「トトロの楠」を挟んで主庭園と逆側に位置する「源氏館」の前(南側)にも池泉庭園が広がります(池としては繋がっている)。桜、アジサイやキキョウなど、主庭園とは異なる花や木が植栽され、池泉にせり出した「雅の間」の雰囲気も含めてまた違う魅力ある庭園。
源氏館の北側にもまた雰囲気の異なる、枯山水のお庭があります。
尚、先述の『松風の間』には2023年に現代の人気庭園デザイナー・石原和幸(石原和幸デザイン研究所)さんのプロデュースによって大幅に改修された庭園があるそう(今回は紹介できず)。氏が監修したエリアが他にもあるそうで、そこが源氏館の北庭。訪れた夏場は見頃の花はなかったけれど、春や秋にはきっとまた違う姿を見せているはず。
■離れ「鞍掛庵」のお庭(25〜26枚目)
小川を流れる森の中をゆく、こちらもまた趣が異なるお庭。雑木の庭。
歴史と庭園を中心に紹介しましたが、お食事も絶品、そして温泉も源泉掛け流し!露天風呂も「庭園露天風呂」と名付けられている通りの自然景観と石組みで、ついつい長湯したくなる——。
また、ロビーには代々のオーナーが収集した歴史的な武将ゆかりの古美術品や武具、刀剣が展示。上杉謙信の十字の槍をはじめ、武田家、毛利元就、宮本武蔵ゆかりの武具、そしてこの地の主だった和田義盛が“仇討ち”が有名な曾我兄弟とお酒を酌み交わした盃まで!名門旅館、いつか利用してみて。
(2024年7月訪問。以下の情報は訪問時の情報です。最新の情報は各種公式サイトをご確認ください。)
投稿者プロフィール
