“酒都”西条の造り酒屋に重森三玲が作庭した枯山水庭園。酒蔵のなまこ壁や赤瓦との組合せも美しい、国登録名勝。
前垣氏庭園“寿延庭”について
【非公開・不定期で申込制の特別公開あり】
「前垣氏庭園“寿延庭”」(まえがきしていえん・じゅえんてい)は重森三玲により作庭された枯山水庭園で、2016年に国登録記念物(名勝地)に選定。“酒都”西条の町で大正時代に創業し100年続く酒蔵『賀茂泉酒造』の創業家の邸宅に作庭されたお庭で、その邸宅や酒蔵の建造物(主屋、新座敷、土蔵、門および塀)も国登録有形文化財となっています。
通常非公開ですが、文化財となった2016年以降、東広島市の主催で不定期(年に1、2度)で申込制の特別公開をやっている…というのに2017年頃に気付いて。こまめに東広島市のサイトをチェックし続けていたのですが(秋だったり春だったり初夏だったりまちまち)、開催情報を掴んだところでなかなかその為に東京から広島まで行くのはハードルが高いなあ…と思っていた。
…のですが。今回はようやくと言うか、京都への引越しが決まったタイミングでこの公開も発表されていて!京都なら行きやすい!(近くはないけど…。)速攻申し込んで初めて訪れました。念願。
酒蔵が立ち並ぶレトロな西条の町並みも前から訪れたいと思っていた。白牡丹酒造、賀茂鶴酒造、福美人酒造…などなど立派な白壁の立派な酒蔵が立ち並び、街中に文化財建造物が溢れている。勿論お酒好きにもたまらない!
そして酒蔵の街…ってなんか渋いイメージを抱くかもしれないけど、若者向けのおしゃれな店(って言い方がおっさんっぽいかもしれない)も結構あって。カフェとか庭園のあるイタリアンとか。若い観光客の姿も多かったし、観光案内所で色々資料見つつ、案内の方の「どこから来られたんですか?」という質問にも耳を傾けていたんだけど、結構遠くから来られていた方も多かった。こういうのが穴場の観光地なんだなぁと思う。
基礎情報。「前垣氏庭園」は3つの枯山水庭園から構成されます。冒頭の写真が本庭、あとは門を入ってすぐの場所にある前庭、そして坪庭(中庭)。1955年、重森三玲さんが59歳の時の作品。いずれも白砂と石組による美しい庭園なのですが――庭園の解説は文化遺産オンラインがちゃんとした文章なのでそちらを参照されたし。
今回は主に現在の副社長(四代目)前垣壽宏さんのご案内での見学でした。その中での面白かった、印象的なエピソードを。
■ 重森三玲さんに作庭を依頼したのは大祖父の代。今の時代と違い、手紙で依頼をし、その返事がいつ来るかわからないという時代。重森三玲さんは年末の(今年の新米で出来たお酒を出荷する前の)酒蔵が忙しい時期に急に訪れた。
■ こうして約20日間に渡る造園が始まった。しかし重森三玲さんと言ったらやはり“石”。工場に囲まれたこの本庭には石を運び込むのが難しい。
■ その結果、工場の一部を解体してまで石を運び込むことに。
■ 例年であれば酒蔵が忙しい時期なのだけど、その年はそれが進まなかった(という笑い話)
■ 子供の頃は砂に入ったら怒られるし普通に走って遊べるお庭が欲しいと思っていたけど(笑)、子供の頃から祖父や父親に話しを聞きながら育ち、今では同じようにこの庭園を語り継いでいきたいと思っている
■ そしてこのお庭は前垣氏にとっても、賀茂泉酒造という会社にとっても宝である。お手入れは社員にも手伝ってもらうこともあるし、砂紋引きもしてもらっている。
■ 今日のこの砂紋は30代前半の社員の子のもの。(←すごい!)
■ またこの“壽延庭”という名前は大祖父の“壽一”の名から三玲先生がつけられたもの。二代目が壽三、三代目の父が壽男。四代目は壽宏で「かずひろ」と読む。
などなど、当時の貴重な資料や書も交えながら色々と興味深い話を聞かせていただいた!特に「本当はこのお庭で遊びたかった」というリアルな子供心に、個人的には面白いなあって思ったりする。
京丹後の『田茂井氏庭園』の時と同じなんだけれど、“庭園”というものが“宝”といて認識されている――この話を聞くのが個人的にはとても好きで、そして伝えたくなる。勿論、宗教性ではなく“酒蔵”という場所に置いて世界観を表現し切る、重森三玲はやはりすごい…と思わせられるのだけど。小雨が降って濡れた石も、そして酒蔵の赤瓦との組合せも良かった!
あともう2点。重森三玲さんの庭園で見られるこの特徴的な延段?洲浜?は、この庭園が最初?だったそう。またお庭にある句碑は山口誓子さんの詠んだ歌。すごく素敵な字だなー。後日、津山でも山口誓子さんの石碑を見つけた。この方の字、好きだなあ…神戸に記念館があるのか。今度行こう。
なお今回の見学は定員の半分程のお申込みだったそう。遠くから訪れる自分のような存在はさておき、地元のより多くの方にこのような素晴らしい庭園が、京都まで行かないでも大変身近にある…ということが知られてほしいなぁなんて思う。自治体のウェブサイトでしれっと告知されるだけでなく、観光協会のサイトとかに載ればまた違うのかな…。
また、賀茂泉酒造さんの今年度の『頒布会』ではこの庭園を眺めながら新酒などを楽しむことができるそう。今回は既に締め切っていますが、来年以降もそのようにお庭を活用していくのかもしれない。
庭園は特別公開時以外非公開ですが、酒蔵見学や日本酒喫茶『酒泉館』などは週末を中心に運営されています。詳しくは『賀茂泉酒造』公式サイトにて!
(2019年11月訪問。以下の情報は訪問時の情報です。最新の情報は各種公式サイトをご確認ください。)