九年庵(旧伊丹家別邸)庭園

Kunenan Garden, Kanzaki, Saga

毎年GWの新緑と紅葉の季節のみ期間限定特別公開の佐賀&九州を代表する紅葉の名所庭園!近代の実業家による数寄屋建築も見所。国指定名勝。

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九年庵(旧伊丹家別邸)庭園について

【例年、春・秋に期間限定で特別公開】
「九年庵」(くねんあん)は佐賀県神埼市にある、佐賀県および九州を代表する紅葉の名所の庭園&数寄屋造の和風建築。明治時代に佐賀の実業家・伊丹文右衛門/伊丹弥太郎の親子が造営した別荘で、「九年庵(旧伊丹氏別邸)庭園」の指定名で国指定文化財(国指定名勝)となっています。

毎年、春のゴールデンウィーク期間前後と秋の紅葉シーズンに特別公開される「九年庵」(※年ごとの公開期間は神埼市観光協会の公式サイトでご確認ください)。九州以外の方にはあまり馴染みがない名前かもしれませんが、紅葉シーズンには九州各県から自家用車やバスツアーで大変多くの方が訪れます。
またそれに併せて「紅葉まつり」も近くの広場で開催され多くの出店が並ぶ。一年の公開日は少ないながらも、町ぐるみでここまで公開が盛り上げられている「国指定文化財庭園」って、なかなか稀有かも…?もちろん、その盛り上がりに相応しい名庭園の一つ!

JR神埼駅からは北へ約5km、福岡県と佐賀県の境でもある標高1,055mの脊振山の南麓に位置する九年庵。別荘の造営は明治時代ですが、隣接する『仁比山神社』の歴史は古く、奈良時代の729年(天平元年)に京都『松尾大社』から御分霊を勧請し創建と伝わります。江戸時代(当時の名は『山王日吉宮』)には佐賀藩主・鍋島家の援助により社殿が再建、九年庵へ至る参道にある仁王門は当時から残るもので、門の中の金剛力士像が神埼市指定文化財。

また江戸時代までは山王日吉宮の神宮寺にあたる『仁比山護国寺』(行基の創建)がこの一帯にあり、最盛期には“三十六坊”と称される大寺院だったものの、明治時代の神仏分離令〜廃仏毀釈の影響で現在も存続する『地蔵院』のみに。九年庵はそんな護国寺の塔頭寺院『不動院』の跡地に造営されました。

明治時代の半ばにこの跡地を取得したのは実業家・伊丹彌太郎と父親の伊丹文右衛門。近代に「佐賀財閥」と称された地方財閥を築いた伊丹彌太郎、佐賀県内のみならず現・西鉄(九州鉄道)の初代社長をつとめ、また貴族院議員にも選出されました。氏が経営した電力会社(関西電気/東邦電力)の先代社長が福澤桃介、次代が“昭和の電力王”松永安左エ門…といったところからも、文化的にも影響力あるポジションだったことがうかがえます。(また九年庵には大隈重信が訪れたことも)

伊丹家の別邸(現在残る茅葺屋根の「書院」)が建築されたのは1892年(明治25年)。そして弥太郎によって本格的に庭園の造営がなされたのは1900年〜1908年(明治33年〜41年)。この9年の歳月から名付けられた茶室「九年庵」の名が、今日ではこの別邸・庭園すべてを指す名前として親しまれています。扁額は富岡鉄斎の筆。作庭者として名が残るのが“久留米が生んだ名作庭家”とも評される、久留米『誓行寺』住職・阿理成(ほとりりじょう)和尚。

しかし現在美しい姿を見せてくれている九年庵も、昭和時代前半に伊丹家から所有が移った後は茶室が解体されたり、庭園の石材が売却されるなど徐々に荒れた姿に。保存が危ぶまれた中で、1960年(昭和35年)に九年庵を購入したのが現在はシューズメーカーとして有名な「MoonStar」(NewBalanceのライセンシーでもありました)の前身企業「月星ゴム」の社長・倉田泰蔵。その後の再整備に関わったのが昭和日本の代表的な庭園研究家・森蘊。森蘊さんはムーンスター創業家ゆかりの寺院『遍照院』に庭園を作庭されています。

1980年代に倉田家から佐賀県へと所有が移り、今と同じ期間限定での一般公開が開始。2010年代に春季の特別公開が始まると、ごく近年(2025年から?)これまでの下段部・上段部だけではなく「山林部」の一般公開も始まりました。

文化財の指定範囲で約11,000平方メートルの広さをほこる九年庵の庭園。入場門を入って最初に歩く「下段庭園」、かつて別邸として使われた茅葺屋根の和風建築のある「上段庭園」、そしてそこから更に山の中へと入った先の開かれた広場「山林部平場」の3つのエリアから構成されます。

庭園のタイプは一言では表しづらい…上段庭園には池泉もあるし、全体的には回遊して楽しむ庭園だけれど、池泉回遊式庭園…と言うよりは、今はなき茶室「九年庵」を中心とした「露地、茶庭」といった趣で、“モミジの名所”として有名だけれど、下段〜上段にかけての庭園の苔むした姿も一級品…!下段〜上段へ至る石垣・石段(地形)は寺院が並んだ時代の面影を感じさせ、その石段を登った場所から振り返ると雲仙・普賢岳まで見渡せる眺望が◎!書院の主座敷からも、苔庭越しの借景が素晴らしい。

近年公開された「山林部」へと至る斜面を登っていくと、その途中から紅葉に囲まれた茅葺屋根の姿を楽しむことができます。これがまた絶景、美しい!
そして「山林部平場」は、上段部の苔の茶庭とは雰囲気が全く異なるものの、かつての施主がコレクションしたであろう石造物や庭石が色々と、そして飛び石の園路が配されている空間。また上段〜下段へと続く水の流れの始点も実はこの山林平場にあり、石組や流れの姿が確認できます。九年庵庭園が更にスケールのデカい庭園だった…!

九年庵を順路通りに出ると、隣接する『仁比山神社』の社殿のすぐ近くに。神社の紅葉も見事!混雑時は先に神社を散策して。また参道には佐賀県指定文化財(史跡)の『伊東玄朴旧宅』も。こちらから眺め見る紅葉も見事なので、あわせてチェック!

(2017年11月、2025年11月訪問。以下の情報は訪問時の情報です。最新の情報は各種公式サイトをご確認ください。)

アクセス・住所 / Locations

佐賀駅・福岡方面から高速バス「高速神埼」バス停下車 徒歩20分
JR長崎本線 神埼駅より路線バス「仁比山神社」バス停下車 徒歩5分(公開期間はバス増発)

〒842-0123 佐賀県神埼市神埼町的1696 MAP

投稿者プロフィール

イトウマサトシ
イトウマサトシ
Instagram約9万フォロワーの日本庭園メディア『おにわさん』中の人。これまで足を運んで紹介した庭園の数は2,000以上。執筆・お仕事のご依頼も受け付けています!ご連絡はSNSのDMよりお願いいたします。
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