喫茶 竹の熊

Kissa Takenokuma Garden, Minamioguni, Kumamoto

令和の時代に阿蘇小国に生まれた、水庭と建築が一体となった“庭屋一如”な庭園が美しいカフェ/ショップ。世界で活躍する庭師・山口陽介(西海園芸)作庭。

庭園フォトギャラリーGarden Photo Gallery

喫茶 竹の熊について

「喫茶 竹の熊」(きっさ・たけのくま)は2023年春に熊本県・南小国町にオープンしたカフェ/ショップ。江戸時代からはぐくまれてきた九州随一のブランド材「小国杉」の製材所が、その杉をふんだんに活かした和風建築が見所で、建築と一体化した庭園は海外でも活躍されている庭師、西海園芸・山口陽介さんの作庭。建築は下川徹 / TORU SHIMOKAWA architects設計。

2023年5月に開店するや、多くのカルチャー誌、旅行誌に取りあげられ、すでに人気店となっている「喫茶 竹の熊」。実は、『おにわさん』では開店直後の2023年5月末に放送されたホラン千秋さんのラジオ番組にて「いま行きたい庭園」として竹の熊さんを挙げておりました(この時)。そこから実際訪れるまでに時間を要してしまいましたが2024年春に初訪問…!

黒川温泉をはじめとする「南小国温泉郷」が観光的には有名な南小国町は林業がとても盛んな地域であり、「小国杉」は江戸時代中期に熊本藩の政策としても営まれてきた歴史を持ちます。竹の熊から3km弱の場所にある『満願寺』(熊本県指定文化財庭園)には鎌倉幕府・北条氏ゆかりの樹齢1000年とも言われるスギも。

そんな南小国の製材所「穴井木材工場」の三代目・穴井俊輔さん/穴井里奈さん(喫茶 竹の熊/番頭)が、製材所を営む傍らで、2017年に設立されたのが木や山の素材を活かしたインテリア・ライフスタイルブランド『FIL』。木材を部材として製造/販売するだけでなく、その材を活かしながら自らのプロダクトを生み出す…その一環でこの竹の熊も、雰囲気や飲食を楽しむ場でもありつつも、食器などのインテリアから料理まで、すべて地域の素材によって作り出された空間という、発信・拠点・場としての側面も併せ持ちます。

そんな小国杉の立ち並ぶ山々と水田に囲まれた集落に現れる「喫茶 竹の熊」。周囲の田畑でも使われている、阿蘇の湧水が引き入れられた池庭とそこに浮かび上がる高床式の数寄屋風建築――「建築が先で、お庭が後」になりがちな現代において、まさに水庭と建築が一体化した、施主(プロデューサー)、建築家、造園家が同じ方向を向いていないと為し得ない、まさに「庭屋一如」な空間!

それにしても。事前に拝見していた写真でも「これは美しい空間だ」と感じられるしその期待感を持って訪れているものの、辿り着くまでのローカルの風景を思うと「この場所にこんな洗練された空間が現れるなんて」と驚く…!

「100年残る場所にしたいと思っていた」という施主の想いは、著名な建築家/作庭家/職人が関わって体現されている一方で、その柿葺の屋根は地元の学生さんからお年寄りまで一緒になって張られたものなのだとか。なので決して「地域の外から来た人がオシャレな建物を作ったね」で終わりでなく、地域で作り上げた「誇り」にもなりそうな――

建築だけでなく、入店における導線も変わっていて――自然石の石段を降りて、沢飛び石を渡って、オーダー場所のショップ棟へ。まるで有名な庭園料亭のようなアプローチ…そんな店内のすべての場所から眺められる池庭は、木材とともに、豊富な阿蘇・小国の「水」を活かして構想されたもの。流れ続けている清流による水盤はどの季節でも建築や空を写し込んでくれそうですが、田植えの水が張られたばかりの時期(5月初旬頃?)は水庭がより広くなったかのような景色が見られそう…。(そして、この田んぼで採れたお米がフードメニューとなっている循環)

池にせり出す板の間の姿は喫茶 竹の熊の象徴的な空間を作り出していますが、ショップ棟の店内席からはさらにグラウンドレベルが低い地点から(水面の下から!)その水庭と建築を眺められることができます。庭や景色を見るための「視点」にもここまでこだわられている!(さらに店舗の中には照明がなく、自然の光だけで採光されている…点もこだわりポイント)

それでもやっぱ。決してアクセスが良いとは言えない場所に、東京の多数のメディアが訪れ取り上げられているのはすごい。「良い庭を作れば、みんな見に来たくなるのですね」。シンプルな答えだけれど確かにそうかもしれない――現代にも、施主と職人の想い(や諸々の条件)があれば、これだけの空間が作り上げられる。

また、喫茶から徒歩3分ほどの場所には国指定天然記念物の『竹の熊の大ケヤキ』があります。さらに、2kmほど離れた場所には熊本県指定文化財の庭園『満願寺庭園』も。こちらも美しい池泉庭園。庭園好きはあわせて訪れてみて。

(2024年4月訪問。以下の情報は訪問時の情報です。最新の情報は各種公式サイトをご確認ください。)

アクセス・住所 / Locations

JR豊肥本線 阿蘇駅・熊本空港より路線バス/高速バス「南小国役場前」「市原」バス停下車 徒歩10分強

〒869-2401 熊本県阿蘇郡南小国町赤馬場2041 MAP

投稿者プロフィール

イトウマサトシ
イトウマサトシ
Instagram約9万フォロワーの日本庭園メディア『おにわさん』中の人。これまで足を運んで紹介した庭園の数は2,000以上。執筆・お仕事のご依頼も受け付けています!ご連絡はSNSのDMよりお願いいたします。
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