“井伊直虎”ゆかりの国指定文化財『龍潭寺』からも程近く。“足立美術館”中根庭園研究所が蘇らせた、借景の美しい江戸時代作庭の枯山水庭園。静岡県指定名勝。
実相寺庭園について
「松源山 実相寺」(じっそうじ)は静岡県浜松市の北西部、旧・引佐町にある臨済宗の禅寺。大河ドラマ『おんな城主 直虎』にも登場した“井伊谷三人衆”金指近藤氏の菩提寺で、江戸時代初期の作庭と推定されている静岡県指定文化財(静岡県指定名勝)の枯山水庭園が残ります。引佐三十三所観音巡礼一番札所、浜名湖新西国27番札所。
『おんな城主 直虎』で注目を集めた「井伊谷」、そして国指定文化財庭園『龍潭寺庭園』。その周囲には他にも文化財指定を受けている古庭園が残ります。こちらの実相寺は龍潭寺からは約2kmほど。浜松城から井伊谷〜鳳来寺道〜その先の三河・信州へとつながる旧金指街道沿いに位置します。
その歴史について。遠州の名刹『方広寺』を開いた無文元選禅師の第一弟子・悦翁禅師により南北朝時代の1387年(嘉慶元年)に創建。当初は「新正院」という寺名で、現在地よりもやや南の静岡県立浜松湖北高等学校あたりにあったそう。
時は過ぎて江戸時代。“徳川四天王”として近江国・彦根藩の大大名となった井伊直政/井伊家に代わりこの地を治めることになったのは“井伊谷三人衆”近藤康用の子・近藤秀用。秀用が藩主をつとめた“井伊谷藩”は一代のみと短命で廃藩となりますが、当地は秀用の子供たちの領地に分割され幕末まで近藤家の領地として治められました。
康用以来代々徳川家康に仕え、小田原征伐や関ヶ原の戦いでも戦功をあげた近藤家。秀用の孫・近藤貞用が父・近藤季用を祀るために新正院を金指の高台へと移し、寺名も「実相寺」と改められました。
現在残るお堂・伽藍も近藤家の援助によって整備されたもので、本堂は1678年(延宝6年)、観音堂は1702年(元禄15年)、鐘楼門は1717年(享保2年)、庚申堂は1845年(弘化2年)とそれぞれ江戸時代に建立されたもので、いずれも浜松市指定有形文化財。本堂の“實相寺”の扁額は黄檗宗・独湛性瑩禅師の筆。
そして本堂との並びに静岡県指定文化財の枯山水庭園があります。江戸時代初期の作庭と推測されているこの庭園、発見されたのは比較的近年の1994年(平成6年)。静岡県の現・磐田市出身で『足立美術館』などが世界的に人気の作庭家・中根金作率いる中根庭園研究所により石組が発見され、修復・整備され現在へと至ります。
本堂の南に位置する観音堂側から、三つのコブを持つ築山や(築山のモチーフとなっている「三岳山」を借景として眺める場合と/本堂から築山を左手に、マツと亀島を正面に見て眺める場合と、2つのビューポイントを持つ庭園。築山の背後にはこのお寺に眠る近藤季用夫妻の廟所(五輪塔)があり、両者を遥拝するための場でもあったと推測されています。また、春に訪れると築山の周囲にはミツバツツジのピンクの花が咲きほこり庭園を彩ります。
遠州の名刹による『湖北五山』には含まれないものの、湖北五山の池泉庭園とはまた違うタイプの名園で、ご住職曰く「近年はネットで広がってるのか訪れる人も増えた」のだとか(なお、当サイトInstagramでも人気がある印象)。地域の方も、全国の庭園好きも、ぜひ訪れてみて。
(2015年11月、2019年4月、2020年12月、2023年7月訪問。以下の情報は訪問時の情報です。最新の情報は各種公式サイトをご確認ください。)