近代鳥取の高額納税者だった実業家/貴族院/衆議院議員・石谷伝四郎の豪邸と借景の美しい庭園。国指定重要文化財。
石谷家住宅・庭園について
「石谷家住宅」(いしたにけじゅうたく)は智頭往来の宿場町“智頭宿”の代表的な邸宅(豪邸)で、昭和初期に建てられた主屋・座敷棟・家族棟のほか明治〜大正期の複数の蔵が国指定重要文化財。その庭園が「石谷氏庭園」として国登録記念物(名勝地関係)および鳥取県指定名勝となってます。鳥取県指定名勝の第一号。
2019年秋に初めて智頭町を訪れました。元々は岡山の津山に行くことを決めていて――宿を探した結果、智頭急行沿線のあわくら温泉のゲストハウスに泊まることになったのでその足でそのまま智頭へ。
この「石谷氏庭園」が春と秋の数日のみ特別公開されるというのは何年か前から把握していたんだけど、ようやく初訪問。今回は“ルート的に行けそう”ってぐらいだったんだけど、運良くこの秋の庭園特別開放最終日に。
しかしこんなに大きな邸宅とは思わなかった…!石谷家は江戸時代には宿場町の商家として、明治以降の近代には山林地主として栄えた旧家。なるほど、どおりで(後で紹介する)庭園の借景が素晴らしいわけだ。
この邸宅を建築した頃の当主・石谷伝四郎は衆議院議員・貴族院議員も務め鳥取県の多額納税者でもあったそう。
デカくて広くて(3,000坪)、部屋も沢山(40部屋!)あるので建物の魅力は公式サイトの説明に任せたい(笑)自分が目が行きがちなのはやはり“意匠”。欄間や障子の透かし彫りが素晴らしいの!!
制作者は国米泰石さんという方。堀込泰行さんを連想する名前…というのはさておき、智頭出身の彫刻家で岡倉天心に見出され日本美術院へ。奈良・東大寺をはじめ国宝級の仏像修復に数多く携わり、京都・妙心寺からは“大仏師”の称号も与えられたすごい人。この方の彫刻だけでも観に行く価値ありでは…!
ハート型(源氏パイ型)の透かし彫りが印象的な“江戸座敷”から、赤く染まった山を借景とした池泉回遊式庭園が眺められます。庭園に降りて歩くことができるのは例年GW前後と秋の11月中旬の週末ですが、それ以外の時期もこの江戸座敷や新建座敷や二階から眺められます。
庭園もこの池泉庭園、上段部分にある芝庭、茶室の裏にある露地庭や坪庭、中庭…と広大な敷地にいくつかあるのですが、最も早い時期――現在の邸宅の工事がはじまった大正時代以前の作庭で、元の江戸座敷が整った幕末の安政年代〜明治30年に小松宮殿下を迎えた間の時期と推定されています。
借景となっている牛臥山、豪勢な滝に長い石橋――という江戸座敷側からの眺めも素晴らしいし、その逆側から茶室・江戸座敷を眺めてもその先にはやはり山の借景が目に入るし、母屋の前に広がる枯山水庭園〜芝庭はまた違う趣きがあって素敵。智頭も今年は紅葉が遅かったのだとしたら、例年は周囲のモミジも真っ赤に染まってるんだろう。ここは本当に一流の庭園!
最後の一つ余談を。“国指定名勝”と“国登録記念物(名勝地)”ってどれぐらい格が違うのって話。これは以前志布志の庭園を巡った時にご案内いただいた方や、別の文化財に詳しい人に聞いた話なのですが、保護の仕組(助成金など)の格的には『県指定名勝>国登録名勝』なんだそう。
“国ナントカ”っていう名前の優位性はあるけど、国登録…よりは市指定名勝の方が良い場合もあるんだって。へえー。で、“国登録名勝”と“●●指定名勝”のダブルになってる事例は殆ど無いのですが、この石谷氏庭園は国登録名勝と県指定名勝のダブル。これってアリなの?…と思ったら、Wikipediaに注釈があった。なるほどー。書いた人天才。
この庭園のみならず智頭の宿場町は他にも立派な邸宅が残り(いくつか公開施設もあり)素敵な街並みでした。また訪れたいし地味ながら推せる観光地!
(2019年11月訪問。以下の情報は訪問時の情報です。最新の情報は各種公式サイトをご確認ください。)
アクセス・住所 / Locations
智頭急行智頭線・JR因美線 智頭駅より徒歩10分
智頭駅〜鳥取駅を結ぶ路線バス「京橋」バス停下車 徒歩5分
〒689-1402 鳥取県八頭郡智頭町大字智頭396 MAP