古都・奈良を撮影し記録し続けた写真家・入江泰吉が“万葉の花”を育てたお庭と、志賀直哉や白洲正子らも訪れた近代和風住宅。
入江泰吉旧居について
「入江泰吉旧居」(いりえたいきちきゅうきょ)は奈良出身で古都・奈良/大和路の写真を四半世紀以上に渡り撮り続けた写真家・入江泰吉の旧居。奈良の代表的観光スポット『奈良公園』や世界遺産『東大寺』にも程近く、国指定名勝の日本庭園『依水園』や『吉城園』と同じ通りに建ちます。
奈良・東大寺の旧境内地で生まれ育ち、やがて当時は新しい表現だった“写真家”の道を志した入江泰吉。
太平洋戦争/大阪大空襲でそれまでの拠点だった大阪の自宅が焼失したことを機に、奈良へUターン。《東大寺の仏像など古美術が戦勝国・アメリカに接収される》という噂(*デマ。念のため)を耳にしたことをきっかけに、以後奈良の仏像や古美術の写真を撮り記録することを決意。
以後数十年間に渡り奈良の写真を撮り続けた入江泰吉。古美術以外にも風景・伝統行事などを撮り続け、その写真の数々は古都・奈良のイメージ形成にも貢献(晩年には勲四等瑞宝章も受章)。1992年に逝去された後は、約8万点にも及ぶ作品が所蔵された『入江泰吉記念奈良市写真美術館』が奈良市により開館。
この旧居も泰吉の妻・ミツヱさんにより奈良市に寄贈され、割と近年の2015年(平成27年)より一般公開がはじまりました。当時泰吉が作業したアトリエや暗室、文豪・志賀直哉や文筆家・白洲正子、泰吉の教え子“水門会”が集った客間などの空気感を味わうことができます。
この邸宅のある水門町は冒頭の『依水園』や『吉城園』などが建つ、いわゆるお屋敷街。その2つと比べると入江泰吉旧居は比較的小ぶりですが、昭和の戦後(1949年)に建てられたこの旧居も茶室など数寄屋風の意匠とコンクリート造?で洋風も取り入れられたアトリエが入り混じった“近代和風住宅”の趣き。
万葉集にも詠まれた宣寸川(吉城川)に面した崖線の真上に建つこの邸宅、お庭も面積以上に高低差や自然の風景を感じられる庭園になっています。
まず室内からの眺めもまるで自然の中に居るような風景。玄関前庭や暗室との間のお庭(主庭)はさほど広くはないけれど、その中では当時から奈良にちなんだ万葉の植物が育てられていたとか。
吉城川へと下って邸宅を一周する園路の脇には石仏も(元から残るのか泰吉が買い集めたのか)。今回歩いた時には吉城川の中を通り過ぎてゆく鹿の姿がありました。今は侵入防止のフェンスが設けられているけど、泰吉の生前はそれもなく吉城川がより庭園の一部だったのかもなぁ。そんな工夫も感じられる入江泰吉旧居、ぜひ立ち寄ってみて。
(2022年11月訪問。以下の情報は訪問時の情報です。最新の情報は各種公式サイトをご確認ください。)
アクセス・住所 / Locations
近鉄奈良泉 近鉄奈良駅より徒歩10分強
JR大和路線・奈良線 JR奈良駅より徒歩30分
JR奈良駅・近鉄奈良駅より路線バス「県庁東」「押上町」バス停下車 徒歩4分
〒630-8208 奈良県奈良市水門町49-2 MAP