百済寺喜見院庭園

Hyakusaiji Temple Garden, Higashiomi, Shiga

聖徳太子が開いた、紅葉の名所“湖東三山”最古の寺院。“鈍穴流”花文 三代目の集大成“天下遠望の名園”。国指定史跡。

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百済寺本坊・喜見院庭園について

「釈迦山 百済寺」(ひゃくさいじ)は紅葉の名所として有名な滋賀県の“湖東三山”の一つに挙げられる寺院。その境内が「百済寺境内」として国指定史跡・東近江市指定名勝、本堂が国指定重要文化財。そして国登録有形文化財となっている本坊の「喜見院」に昭和中期に“鈍穴流”花文造園三代目・山村文七郎により作庭された池泉回遊式庭園が“天下遠望の名園”と呼称されます。

2020年11月に4年ぶりに湖東三山の『西明寺本坊庭園』『金剛輪寺明壽院庭園』へ――そしてその足で初めて湖東三山の最後の一つ・百済寺庭園へ。他の2箇所と同様に紅葉の名所。…ですが他の2つと比べて最寄り駅から距離がある・更に標高も高い山の上になるので、いつものノリでレンタサイクルで行くとは言えず…今回は原付に頼りました。

その歴史は他の2つより古く、1400年以上前の飛鳥時代の606年(推古14年)聖徳太子によって“鈴鹿50名山”の一つ・押立山の中腹に創建。その名の通り朝鮮半島西部にあった百済からの渡来人のために建立されたそうで、その姿は百済の名刹“龍雲寺”を模したものだったとか。当時の御本尊は聖徳太子自らにより制作された“植木観音”(現在では秘仏)。

平安~鎌倉時代にかけて天台宗の寺院となり、最盛期には1000もの僧坊をもつ大寺院となったものの、戦国時代に入ると徐々に戦乱に巻き込まれるように。
複数回の焼失を繰り返し、極めつけはやっぱり織田信長による焼き討ち。1573年に近江国守護・六角承禎が百済寺近くの鯰江城に籠城、百済寺が一部支援をしたことから火が放たれました。

西明寺や金剛輪寺のように境内の長い坂道を登った先には古い本堂が残っていて国指定重要文化財となっていますが、これは江戸時代に入った後の1650年(慶安3年)に彦根藩主・井伊直孝の尽力により再建されたもの(仁王門も同時代の建築)。それでも江戸前期なのでとても歴史ある建築なのですが。

本坊の「喜見院」が標高約300mの現在地に移ったのが1940年(昭和15年)。設計・施工を手掛けた宮部太兵衛、名前で調べると江戸時代中期には米原の国文化財『観音寺』の伽藍を、江戸時代後期に長浜の大寺院『大通寺』の山門を手掛けられている。滋賀で代々続く宮大工の家系なのかな。

喜見院庭園が完成したのはそこから25年以上経った後。遠州流の作庭流派“鈍穴流”を受け継ぎ、近江商人の街・近江五箇荘を拠点に滋賀で数多くの日本庭園を残している花文の三代目・山村文七郎のもと約5年間かけて作庭されました。既に70を越えた晩年の三代目が新聞に「ソロバンぬき、納得ゆくまで」と語った、まさに集大成の傑作。

湖南市の『西應寺庭園』も所々に巨石が配されていた庭園だったけれど、この百済寺の庭園は更にその20年以上も前。今ほど様々な重機がない時代に職人たちの手により、この山の中や谷川から選りすぐりの石が集められ、そして配されたのがこの“真の山水の庭”。そう思えば5年という歳月も納得。

山からの自然の水を活かした滝石組やモミジ林の間の水の流れ、山の斜面に配された巨石・サツキの刈込・マツ…360度見ごたえある庭園…なんですが今回は人が多すぎて落ち着いて見れなかったので、また人が少ない時期に再訪しよう。

庭園の高台部からは湖東平野、琵琶湖の水面、そしてを比叡山のぞむことができ、その様も含め『天下遠望の名園』と名付けられました。戦国時代の宣教師ルイス・フロイスは百済寺のことを“地上の楽園(地上の天国)”と評したそう。その旧跡にふさわしい現代日本庭園の名庭園の一つ。

(2020年11月訪問。以下の情報は訪問時の情報です。最新の情報は各種公式サイトをご確認ください。)

アクセス・住所 / Locations

近江鉄道 愛知川駅・JR琵琶湖線 能登川駅より路線バス「百済寺本町」バス停下車 徒歩20分
近江鉄道 八日市駅よりちょこっとバス愛東線「百済寺本坊前」下車 (本数少。⇨こちら
大阪・京都・名古屋方面から名神ハイウェイバス「百済寺」バス停下車 徒歩25分
*愛知川駅より約10km。西明寺、金剛輪寺と比べても山の上なのでレンタサイクルは厳しい。

〒527-0144 滋賀県東近江市百済寺町323 MAP

投稿者プロフィール

イトウマサトシ
イトウマサトシ
Instagram約9万フォロワーの日本庭園メディア『おにわさん』中の人。これまで足を運んで紹介した庭園の数は2,000以上。執筆・お仕事のご依頼も受け付けています!ご連絡はSNSのDMよりお願いいたします。
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