大龍寺 楽水亭庭園

Dairyuji Temple Garden, Oga, Akita

井上円了/折口信夫/三遊亭円楽/折坂悠太…近現代に多くの文化人が訪れた近代別荘建築“楽水亭”。その庭園は“日本最初のランドスケープデザイナー”長岡安平作庭。

庭園フォトギャラリーGarden Photo Gallery

大龍寺 楽水亭庭園について

「海蔵山 大龍寺」(だいりゅうじ)はJR男鹿線の終点・男鹿駅から徒歩10分弱の丘の上に建つ曹洞宗の禅寺。実業家・澤木晨吉の別荘だった近代和風建築『楽水亭』を挟んで2つの庭園があり、そのうち前庭は近代日本を代表する作庭家のひとり・長岡安平の作庭と伝わります。

2023年夏に久々に訪れた東北・秋田、その足で初めて男鹿なまはげラインに乗車して男鹿へ。庭園をお目当てに訪れたこの寺院、なんと7月には折坂悠太さんのライブ会場にもなっていたようで…!告知のポスターを見て驚いた。

古くは東洋大学創立者・井上円了、文学者/歌人・折口信夫、現代には5代目/6代目の三遊亭円楽、そして日本が世界に誇る音楽フェスティバル『FUJI ROCK FESTIVAL』にも2022年にメインステージに出演した人気アーティスト・折坂悠太と新旧多くの文化人が訪れている大龍寺・楽水亭。

寺院の歴史について。創建は室町時代以前。戦国時代までは密教寺院でしたが、1577年(天正5年)に男鹿半島女川の領主・尾名川基季が仙台藩より招いた禅僧を中興開山として曹洞宗の禅寺に改められました。

ただ、寺院だと思って訪れてみると「寺院っぽくない、別荘庭園っぽさ」がアプローチ~前庭から感じられます。それもそのはず、現在の大龍寺は元々は近代に活躍した実業家・澤木晨吉が明治時代末期~大正時代に夏の避暑地として造営した近代別荘建築。

その澤木晨吉について。男鹿で林業を営んでいた家系に生まれ、家督を継いだ後は山林の経営の他にも日本海沿岸での物流や呉服業で成功。当時設立した「澤木銀行」は秋田の地銀「秋田銀行」の前身の一つでもあります。

地元・秋田のみならず鎌倉や田園調布にも別邸を構える程の資産家となった澤木晨吉。4人の男子は東京・慶應義塾に通わせ、そのうちの一人が慶應大学の美術・美術史科の初代教授を努めた美術史家・澤木四方吉(『ミロのヴィーナス』を日本に紹介した人物でもあります)。

そんな両者との繋がりから多くの文化人/著名人が訪れた澤木家別邸「楽水亭」。東京の国指定名勝『哲学堂公園』でも知られる井上円了も紀行文に《避暑宣登楽水台、一湾晴景眼前開、―》と詩を残しました。

四方吉が早死したことをきっかけに、晨吉は12,000坪の敷地をほこったこの別荘を大龍寺に寄進。1931年(昭和6年)に本堂が建立&大龍寺が正式にこの地に移転。日本で唯一の《鐘楼堂を備えた多宝塔》(龍王殿)や折上格天井の大きなお堂が昭和中期~後期にかけ増築され現在へと至ります。

庭園は大きく分けて2つ。主庭は楽水亭時代から残るお座敷と多宝塔の間にある池泉回遊式庭園。多宝塔をアイキャッチとしつつ、春にはツツジ・サツキの刈り込み、夏には蓮やサルスベリがピンクの花を咲かせます。
そして楽水亭のお座敷を挟んで逆側の芝生と刈込が主体の前庭。座敷から眺めると日本海・船川湾の借景が美しい壮大なスケールのこの庭園の方が実は古く、別荘時代から残る近代日本庭園。

そして作庭を手掛けたのが近代の日本を代表する造園家のひとり・長岡安平と聞いて驚いた!“日本で最初のランドスケープデザイナー/公園デザイナー”として日本全国各地で都市公園を手掛けた長岡安平。
氏は国指定名勝『池田氏庭園』や秋田市の『千秋公園』など秋田県で特に多くの作品を手掛けていますが、この楽水亭もその一つ。長岡安平側の史料には記録が無いそうなのですが、澤木家・お寺にはそう伝わり、中でも玄関前にある雪見灯篭は『池田氏庭園』の巨大な雪見灯篭の原本なのだとか(確かに同じデザイン)。

思わぬ形で出会った、多くの文化人も眺めたであろう長岡安平の庭園。また美術史家ゆかりの場ということで、堂内には地元の現代アーティストの作品展示・販売も。
秋には龍王殿を結ぶ回廊の紅葉が美しく、龍王殿の鐘楼からは日本海・船川湾、奥羽山脈・寒風山の眺めも絶景。秋田を訪れた際は男鹿へ足を伸ばしてみて。

(2023年9月訪問。以下の情報は訪問時の情報です。最新の情報は各種公式サイトをご確認ください。)

アクセス・住所 / Locations

JR男鹿線(男鹿なまはげライン)男鹿駅より徒歩10分

〒010-0511 秋田県男鹿市船川港船川鳥屋場34 MAP

投稿者プロフィール

イトウマサトシ
イトウマサトシ
Instagram約9万フォロワーの日本庭園メディア『おにわさん』中の人。これまで足を運んで紹介した庭園の数は1,900以上。執筆・お仕事のご依頼も受け付けています!ご連絡はSNSのDMよりお願いいたします。
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