茶道藪内流十一世家元・透月斎竹窓が作庭した、苔と紅葉の美しい南禅寺界隈屈指の庭園。近年は秋に特別公開!
南禅寺大寧軒庭園について
【通常非公開・2019年、2020年は秋季に特別公開】
「南禅寺大寧軒」(だいねいけん)は京都を代表する禅寺“京都五山”の別格『南禅寺』の塔頭寺院「大寧院」の跡地に造られた現代数寄屋建築と池泉回遊式庭園。国の特別名勝『金地院庭園』の隣。その庭園は明治時代に作庭されたのちに茶道藪内流11世家元・透月斎竹窓によって現在の形に改修されました。
2018年秋の「京都非公開文化財特別公開」で初めて鑑賞。その時もとても感動して――その時には撮影禁止だったのですが、2019年秋・2020年秋には南禅寺本体によって特別拝観が行われました。
知名度が高くないので2019年も最初は足を止める人も少なかったけど、本当に名庭園だと思う――2019年には3回、2020年にも2回訪れたのでその時の写真を掲載しています。
※なお2020年は春も3月下旬より特別拝観が開始されていました。2021年以降も実施されるかな…一応、毎回「今後は未定」とおっしゃられているので、2021年も行われるかは未知数。最新情報は南禅寺公式サイトより。そして春の写真はこちらから。
明治の初期に「大寧院」が廃寺となって以降、現代に至るまでは民間の所有でしたが、2013年に南禅寺が約150年ぶりに所有するに至りました。この庭園は明治時代に作庭された頃は現存する茶室“環翠庵”の庭園として「環翠園」と称されていたそうで、南禅寺界隈別荘時代には稲畑産業の創業者・稲畑勝太郎や三越が所有した時代も。
東山を借景とし琵琶湖疏水を引き込んだ池泉回遊式庭園――という点は『無鄰菴庭園』など南禅寺界隈の庭園に多いとされる形式ですが、この庭園の作庭は7代目小川治兵衛ではなく、薮内透月斎竹窓による作庭。
池泉回遊式でありながら茶室・環翠庵の茶庭としての「わび・さび」を兼ね備えていて、飛び石や石の組み合わせ(石燈籠やつくばいの配置)が派手過ぎず――そして庭園の奥の滝から流れてくる清流と紅葉、苔の組合せが美しい!
この庭園の最もユニークなところは、流れの中に建つ“三柱鳥居”。3つの鳥居でトライアングルを造った珍しいこの造形がまた(神々しさというよりは)またかわいらしく、庭園のアクセントになっている。
主屋前から眺めた時の奥行きや左手の方向にのぞむ借景もまた本当に素晴らしかったのですが、個人的にはこの流れの中に浮かぶ鳥居と背後の滝との組合せがすごく好き!
藪内流の代表的茶室『燕庵』にちなんだという根府川石による沓脱石も。東京では(小田原藩主だった大久保忠朝の)大名庭園『旧芝離宮恩賜庭園』などで多く見られる根府川石は、京都ではさほど運ばれてこなかった石材だったゆえ印象的なポイントで使われることが多いそう。
こんな素晴らしい庭園なのに、透月斎竹窓紹智はここ以外の作庭庭園の情報は今のところ無し。別の場所で透月斎竹窓の茶器を使わせていただく機会があったのだけど(国指定名勝『田淵氏庭園』)、美的センスの優れた人に間違いないだろうし、庭に限らず他の作品をもっと知りたい。
ちなみに2018年に初めて鑑賞した時にガイドさんが口にした“7代目小川治兵衛も関わっている”という点について。その旨を掲載していたら有識者の方から「作庭には関わっていない」との情報をいただきましたが、この庭園に琵琶湖疏水の水を引く際に、小川治兵衛の名前が挙がる。
植治でなくても、南禅寺界隈には素晴らしい庭園が残っている――と痛感させられる、穴場の隠れた名園!
(2018年11月、2019年11月、2020年3月・11月訪問。以下の情報は訪問時の情報です。最新の情報は各種公式サイトをご確認ください。)