朝倉彫塑館 / 旧朝倉文夫氏庭園

ASAKURA Museum of Sculpture's Garden, Taito-ku, Tokyo

近代/昭和を代表する彫塑家・朝倉文夫の自邸/アトリエに自身の構想で作庭された“庭屋一如”な庭園“五典の池”に先進的な屋上庭園。国指定文化財(名勝)。

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朝倉彫塑館 / 旧朝倉文夫氏庭園について

「朝倉彫塑館」(あさくらちょうそかん)は東京・日暮里駅から程近く、「谷中」エリアにある台東区立の美術館。近代~昭和時代を代表する美術家/彫刻家(彫塑家)・朝倉文夫の自宅兼アトリエをミュージアムとしたもので、昭和初期の建築が「台東区立朝倉彫塑館」として4棟(アトリエ棟/旧アトリエ/住居/東屋)が国登録有形文化財。庭園(中庭「五典の池」/屋上庭園)が「旧朝倉文夫氏庭園」(きゅうあさくらふみおしていえん)として国指定文化財(国指定名勝)となっています。

2025年の夏季の企画展が『朝倉彫塑館90年 庭園の魅力』。常設作品に加えて、国指定文化財の庭園の見どころにフォーカスされた展示。また館内の一部箇所が撮影可になったので、その場所からの写真を紹介。

彫刻家/彫塑家・朝倉文夫について。大分県の現・豊後大野市出身。19歳の時に上京、その翌年に東京美術学校(現・東京藝大)に入学し、そこから本格的に彫刻(彫塑)の道へと進みます。ちなみに兄・渡辺長男も同時代に活躍した彫刻家(彫塑家)で、文夫が彫塑の道へ進むことに影響を与えました(渡辺長男も東京都内に多くの作品を残します)。“彫塑”については検索してみてください…

1907年(明治40年)には谷中に住居兼アトリエを構え、その頃(明治時代末期)に制作された代表作「墓守」の石膏原型は現在国の重要文化財に指定。
当初の住居・アトリエも関東大震災も耐えたそうですが、弟子の育成のための「朝倉塾」(朝倉彫塑塾)の開塾などもあり敷地を拡張~1935年(昭和10年)に現在まで残る自邸とアトリエ棟が竣工(旧アトリエは震災直後の1924年・大正13年竣工)。1964年に亡くなられるまでここで過ごし、作品制作を続けました。

その没後、1967年(昭和42年)より「朝倉彫塑館」として一般公開を開始(後に現在の台東区立に)。順路序盤のアトリエや終盤の“蘭の間”で氏の作品のブロンズ像が多数展示されているほか、朝倉自身が設計した建築・庭園、そして朝倉が過ごした様子を伝える各部屋(書斎や大広間「朝陽の間」、それらに展示されている朝倉のコレクションなど)の様子もこのミュージアムの主な見どころとなっています。

正門を入って左手にある東屋も独特の数寄屋風建築で、国登録有形文化財の一つ。順路はコンクリート造のアトリエ棟で作品を見た後、和風建築の住居棟で中庭を鑑賞~各部屋を見学~屋上庭園~アトリエ棟の“蘭の間”で朝倉が好んだ猫ちゃんの作品を愛でる(鑑賞する)…といった流れ。

庭園について。序盤で「中庭と屋上庭園が国指定文化財」…と言ったニュアンスで書いたけど、正確に言うと「敷地全体が国指定文化財の範囲」。正門の石張りや玄関の石の腰張り、住居棟の玄関「天王寺玄関」~「天王寺門」の間にある水の流れのある前庭もその範囲に含まれます。

■中庭「五典の池」(6~8枚目)
公式にも《五典の池は、朝倉哲学を最も顕著に表現している場所》と紹介される、朝倉彫塑館のメインと言えるお庭で、各部屋が池泉にせり出していると言えるぐらい建物のギリギリまで水面が来ているのが特徴的な“庭屋一如”な池泉鑑賞式庭園。朝倉のアイデア/デザインを元に、造園家・西川佐太郎により作庭されました。

その池泉の中に置かれた5つの巨石。儒教の“五常の徳”を表したもので、それぞれ仁・義・礼・智・信という意味が込められているそう。また、その間間に梅、サルスベリ、サザンカと言った四季の白と赤の花木が植栽されています。

■天王寺玄関の前庭(9~12枚目)
かつて朝倉家の玄関だった「天王寺門」~住居の玄関「天王寺玄関」の間にある前庭。こちらも和風建築に合わせた和のお庭で、アプローチの脇には「五典の池」へと注ぐ水の流れが聴覚も楽しませてくれます。玄関の大きな沓脱石〜そこから見える五典の池を見せる窓にも、朝倉の「五典の池」への想いが伝わってくる…。その傍にある洋風の建築が「旧アトリエ」。(※この前庭、2025年に初めて出ました。以前から出られたんでしたっけ…。)

■屋上庭園(16~19枚目)
3階建のアトリエ棟の屋上庭園は、日本の屋上緑化/屋上庭園の先駆け/初期の事例とも言われます。かつて「朝倉塾」には必修科目に「園芸」があり、この屋上庭園を菜園として植物を栽培していたのだそう。

現在も残る花壇では一部で菜園が再現されており、その他にはオリーブの木を主木に、ガクアジサイやアガパンサス、バラなど四季の草花が植栽され楽しむことができます。現在では東の東京スカイツリーの眺めも魅力の一つ!

東京都内の国指定文化財庭園としては『六義園』『旧浜離宮恩賜庭園』をはじめ“大名庭園”が多い中で、東京の昭和の民家としては最初に国指定文化財となった「旧朝倉文夫氏庭園」。東京観光の際には足を伸ばしてみて。

(直近では2025年6月訪問。以下の情報は訪問時の情報です。最新の情報は各種公式サイトをご確認ください。)

アクセス・住所 / Locations

JR山手線・京成本線 日暮里駅より徒歩5分
東京メトロ千代田線 千駄木駅より徒歩8分

〒110-0001 東京都台東区谷中7丁目18-10 MAP

投稿者プロフィール

イトウマサトシ
イトウマサトシ
Instagram約9万フォロワーの日本庭園メディア『おにわさん』中の人。これまで足を運んで紹介した庭園の数は2,000以上。執筆・お仕事のご依頼も受け付けています!ご連絡はSNSのDMよりお願いいたします。
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