蘆花浅水荘(記恩寺)庭園

Rokasensuiso (Kionji Temple) Garden, Otsu, Shiga

日本画家・山元春挙が自らデザインした国重要文化財の近代和風建築と庭園。作庭は“植治”小川治兵衛と並び称された庭師・本位政五郎。

庭園フォトギャラリーGarden Photo Gallery

蘆花浅水荘(記恩寺)庭園について

【拝観は要予約】
「蘆花浅水荘」(ろかせんすいそう)は近代京都を代表する日本画家・山元春挙が滋賀・大津の琵琶湖畔に大正時代に造営した別荘。その近代和風建築および庭園含む土地が国指定重要文化財で、琵琶湖を借景とした庭園は大津市指定名勝となっています。作庭は“植治”七代目小川治兵衛とも並び称された近代京都の庭師・本位政五郎
なお現在は山元家により開かれた曹洞宗の禅寺『記恩寺』となっています。

拝観は3日前までに要予約。…といっても電話すれば3日後に確実に拝観できるというわけではなく、お寺さんと都合が合えば拝観可能(なので早めのご連絡推奨)。…2018年頃からずうっと訪れたい場所だったのですが、2019年まではことごとく都合が合わず…(その後はコロナ禍)。

で、この2022年春、滋賀県立美術館で開催された『生誕150年 山元春挙』展の連携企画として、土日祝のみ予約無しで特別拝観が!(〜6月19日まで) これを機に念願の!初拝観。

竹内栖鳳と並び明治〜昭和初期の京都画壇を牽引し、国内のみならずフランス政府から勲章も受賞した山元春挙。本邸は京都の御所南(高倉通丸太町下ル)にあったそうですが、故郷である大津・膳所の琵琶湖畔に1914年(大正3年)〜1921年(大正10年)にかけて建築されたのがこの別邸。

春挙自身が設計に関わり、京都の大工・橋下嘉三郎をはじめとする職人と作り上げた理想の数寄屋風造りの近代和風建築は表門・本屋・離れ・持仏堂・渡り廊下・土蔵の6棟が国の重要文化財。“蘆花浅水荘”の名は唐の詩人・司空曙が江村の情景を詠んだ詩が由来。

中庭を挟んでほぼ一体の本屋と離れ。見学は主庭園を一望する主座敷(書院)からはじまり、表千家の茶室から名が取られた“残月の間”とその露地庭、主庭園に迫り出した(外観は懸造り)の“莎香亭”と、それと接続した1畳ちょっとの隠し部屋のような書斎“無尽蔵”、床柱から円窓の模様まで全て竹でまとめられた“竹の間”、そして2階にある洋風の応接室とかつての画室とお寺としての本堂…

文字だけじゃ伝わらないんだけど、和洋折衷、また様々な要素を取り入れて意匠を凝らした素晴らしい近代和風建築。このアトリエでは昭和天皇の御大典のために制作された『主基地方風俗歌屏風』も描かれました。

で、各所に掲げられている書などの美術品もすごい。まず玄関にはコンクリートに立て替えられる前の近江八景“瀬田の唐橋”の擬宝珠。書院には江戸時代の有名画家・池大雅や儒学者・頼山陽皆川淇園などの書。
そして扁額の多くは京都『建仁寺』黙雷禅師の筆、本堂には真宗大谷派・大谷光瑞、大谷尊由や黄檗宗・隠元禅師、石山寺の貫主…など色んな宗派の方の書が分け隔てなく(並べて)掲げられている。更には九鬼隆一男爵の書…キリがないけど春挙の人脈の広さが現れている。

琵琶湖を借景とした庭園も山元春挙自身がプロデュースしたもので、作庭には京都の庭師・本位政五郎が携わりました。
昭和の京都を代表する庭師・小島佐一《御殿風の小川治兵衛(植治)、加藤熊吉(植熊)の茶庭風、文人好みの庭の本位政五郎》と名前を挙げたことが京都の造園関係者の間では語り継がれているらしい?けれど、小川治兵衛と比べるとほとんど情報・データは無い本位政五郎…。この蘆花浅水荘は代表作にあたりますが、残念ながら施設のパンフレットや大津市教育委員会による看板には名前が記されていない…。

なだらかな芝生の斜面の中に植わったマツはその先の琵琶湖の風景を隠さないよう背が低く保たれ、天気が良い日は琵琶湖の向こうに“近江富士”三上山の姿も望めるとか。芝生の中には蛇行した流れ(現在は水は無し)が“莎香亭”の足元の手水鉢へと続く…で、この辺の作りが本位が京都・九条山で手掛けた『閒居 吉田や』の庭園とよく似てる。

現在は庭園の奥に琵琶湖畔を埋め立てて開通した湖岸道路が通り、道路と元の庭園の間にも緑地スペースがありますが、元の庭園の築山を越えたところには船着場も。埋立の前は大津・堅田の国指定名勝『居初氏庭園』のような感じだったのかなあ…。 座敷から向かって右手には春挙の師・森寛斎と父親の像を安置した持仏堂“記恩堂”、左手には茶室“穂露”が。穂露の側面の露地や網代編みもかっこいい。

そして現在は“穂露”の向こうに高層マンション、右手には有名宗教法人の教会が立ち、往時の“別荘と琵琶湖、他に何も目に入らない”という風にはいかず――“そのようなマンションを望んできた”のは他でも無い自分たちだと思うのであんまし“景観が損なわれている”とか言いたくないんだけど、せめて高さの規制や配慮はできなかったのかな〜とは思うし、“景観・借景・ランドスケープの価値を高める”発信/アピール不足を個人的には感じるところ。

でも現在の状態でも後世に残したい美しい近代の邸宅と庭園には変わりない!近隣には春挙が復興を目指した“膳所焼”に関する美術館『膳所焼美術館』があり、こちらにも素敵な日本建築と庭園があります。あわせてチェック!

(2022年6月訪問。以下の情報は訪問時の情報です。最新の情報は各種公式サイトをご確認ください。)

アクセス・住所 / Locations

京阪石山坂本線 瓦ヶ浜駅より徒歩2分
JR琵琶湖線 石山駅より徒歩20分弱

〒520-0837 滋賀県大津市中庄1丁目19-23 MAP

投稿者プロフィール

イトウマサトシ
イトウマサトシ
Instagram約9万フォロワーの日本庭園メディア『おにわさん』中の人。これまで足を運んで紹介した庭園の数は1,900以上。執筆・お仕事のご依頼も受け付けています!ご連絡はSNSのDMよりお願いいたします。
PICK UP / COLUMN
最新の庭園情報は約10万人がフォローする
【おにわさん】のSNSから。