西芳寺庭園“苔寺”

Saiho-ji Temple Garden (Moss Temple), Kyoto

聖徳太子からスティーブ・ジョブズまで。禅僧・夢窓疎石が作庭し、百種類以上の苔に覆われた世界遺産&“庭の国宝”の庭園。【完全予約制】

庭園フォトギャラリーGarden Photo Gallery

“苔寺”西芳寺庭園について

【要事前予約/庭園のみの拝観不可】
“苔寺”として有名な「洪隠山 西芳寺」(さいほうじ)。世界文化遺産“古都京都の文化財”にも構成される臨済宗の禅寺で、その庭園は“庭の”国の特別名勝に指定。南北朝時代〜室町時代を代表する禅僧・夢窓疎石(夢窓国師)による作庭と伝わります。

長年『往復はがきによる事前申込制の拝観』を採用されている“苔寺”。
2021年6月より、オンライン申込~手ぶらで西芳寺~がスタート。拝観希望日の2ヶ月前から予約可能な往復はがきでのお申込に対し、オンライン申込は《人数に空きがある日に限り、2週間前から前日まで予約受付》という形。

「久しぶりに行きたいな、往復はがき買いに行かなきゃ」なんて思いながらついつい先送りにしてしまう自分のような方にピッタリのオンライン申込…!(なおオンラインの方が拝観料は高く設定されているので、ちゃんと計画を立てたい人は変わらず往復はがきがオススメです)。直前に思い立った人はオンライン申込をチェック!

京都の西部・松尾山の麓に位置する西芳寺。古くは飛鳥時代に聖徳太子がこの地に別荘をかまえたとも言われる京都屈指の歴史スポットでもあり、創建も奈良時代の天平年間(729~749年)と平安遷都以前。聖武天皇の勅願で行基が開いた“畿内四十九院”の一つ。

以来何度も荒廃と再興を繰り返した西芳寺。現在まで残る庭園の原型を作庭・整備したのは、南北朝時代の1339年(暦応2年)に近隣の『松尾大社』の宮司・藤原親秀に請われ西芳寺の中興開山となった夢窓疎石。(西方寺→西芳寺と寺名が改められたのもこの時)
庭園の中心“黄金池”は平安時代に入寺した弘法大師空海も儀式に用いていたそうなので既にあったんだろうけど、石組や地割などは夢窓疎石が手掛けたもの。

その当時の庭園には楼閣“瑠璃殿”が建ち、将軍・足利義満足利義政も訪れ後の『金閣寺庭園』『銀閣寺庭園』にも影響を与えたと言われる明るく華やかな庭園だったそう。
しかし応仁の乱の兵火で当時の建造物は失われ、“苔寺”と呼ばれるような苔むした姿になったのは江戸時代後期からのここ200年程。(山から湿った空気が流れ込む立地は変わっていないので、それまで苔は除去していたのかな)

現在池のほとりに建つの茶室“湘南亭”は桃山時代に千利休の次男・千少庵により建立されたもので、黄金池を見下ろすような開放的な“月見台”が特徴的。幕末には御所を追われた岩倉具視も隠れ家として幽居。
園内にはもう二つ、“少庵堂茶室”と“潭北亭”という茶室が点在。潭北亭は同名のお堂が夢窓疎石の時代からあったようですが、現在の建物は後に再建されたもの。

そして『西芳寺庭園』としては拝観の際に見られる範囲だけではなく、順路終盤の“向上関”と記された門の先に“上段の庭園”が存在する。そこには開山の夢窓疎石を祀った開山堂“指東庵”や、夢窓疎石が手掛けたという須弥山石組や庭園があり、そしてその枯山水庭園が“枯山水庭園の最古で最高峰”とも評されます。
原則非公開で公式HPでのみ写真が紹介されている。実際目で見たらどんな風に感じる庭園なんだろうな…。

なお拝観の最初に参拝者が写経をする本堂・西来堂も1969年(昭和44年)に応仁の乱以来再建されたもので、堂内の堂本印象の襖絵も見所。
そしてL字に囲むような枯山水庭園…こちらは作者が書かれていないけど、本堂の再建にも当時の著名な建築史家が関わっておられるので、庭園も昭和中期頃の京都の有力作庭家が手掛けた…と考えるのが自然か。

そもそもなぜ、“往復ハガキでの事前予約”という手続きが採られていたのか。

その意図は公式サイトを読んでいただければと思うのですが、高度成長期に“庭園ブーム”というのがあり、それによる観光公害(近隣への迷惑)の結果だったと。

今で言う“オーバーツーリズム”は何も現代はじめて迎えているわけでもない、観光客が騒がしかったのも今“インバウンドで”始まったことではない。当時ブームがあった上で、今現代において文化財的価値のある庭園が消失していっているのは難しいなと思うけど。でも“荒廃”から生まれた“苔寺”の姿。その幽玄な空間は大声よりは静寂が似合う。

(2014年7月、2021年6月、2022年10月訪問。以下の情報は訪問時の情報です。最新の情報は各種公式サイトをご確認ください。)

アクセス・住所 / Locations

阪急嵐山線 上桂駅より徒歩15分強
最寄りバス停は「苔寺・すず虫寺」バス停 徒歩3分

〒615-8286 京都府京都市西京区松尾神ケ谷町56 MAP

投稿者プロフィール

イトウマサトシ
イトウマサトシ
Instagram約9万フォロワーの日本庭園メディア『おにわさん』中の人。これまで足を運んで紹介した庭園の数は1,900以上。執筆・お仕事のご依頼も受け付けています!ご連絡はSNSのDMよりお願いいたします。
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