起雲閣庭園

Kiunkaku Garden, Atami, Shizuoka

“海運王”内田信也と“鉄道王”根津嘉一郎による、大正ロマン漂う“熱海三大別荘”の一つ。ステンドグラスが美しい近代建築と近代日本庭園。

庭園フォトギャラリーGarden Photo Gallery

起雲閣庭園について

「起雲閣」(きうんかく)は観光地・熱海の市街地にある大正時代の近代別荘建築。かつて“海運王”内田信也や東京の『根津美術館』が有名な“鉄道王”根津嘉一郎の別邸として築かれ、和洋豪華なお屋敷と庭園を鑑賞することができます。熱海市指定有形文化財。
2022年秋に6年ぶりに訪れたのでその際の写真を更新。

非公開の三菱財閥・岩崎家の別荘やかつて存在した住友財閥の別荘と並び、“熱海の三大別荘”の一つと称された起雲閣(*もっとも現代となっては非公開で昭和のすごい別荘が沢山ありそうですが)。
戦後は旅館として経営され、その時代には太宰治志賀直哉谷崎潤一郎坪内逍遥・山本有三、といった昭和の文豪・文化人にも愛され、当時の客室も公開されています。バブル崩壊後の旅館不遇の時代〜1999年(平成11年)に旅館廃業・破産となり、熱海市所有の文化施設として一般公開を開始。

その歴史は1919年(大正8年)、実業家&鉄道大臣や農林大臣を歴任した政治家でもあった内田信也の別邸として竣工(順路最初の2階建ての和館部分)。わずか7年で東武鉄道などを発展させた“鉄道王”根津嘉一郎が譲り受けると、以降の昭和初期に今日見られる庭園や洋館、ローマ風浴室等が増築されました。
建築設計に関わったのは清水組(現・清水建設)の大友弘。新潟県長岡市の国指定重要文化財『松籟閣』、新潟市の国登録文化財『新津記念館』でも素敵な和洋の建築を手掛けられています。

そんな風に各時代に増築が進んだ起雲閣を順路に沿って。
受付を済ませてまず鑑賞するのが庭園を見下ろす和室「麒麟」(1階)と「大鳳」(2階)。大正時代の一番最初に建てられたのがこの部屋。後の洋館と比べると地味かもしれないけど、一面の大正ガラスや床の間の意匠、2階の格子状の壁面など“近代和風建築”としての斬新な見所がいくつも。

そしてなにより目を引くのが群青色に塗られた独特の壁面。これは旅館時代に当時のオーナー・桜井兵五郎が地元・石川県の“加賀の青漆喰”を取り入れたもの。そういえば金沢の『辻家庭園』や粟津温泉の『法師旅館』でもこの青漆喰があったなぁ。

数寄屋風の渡り廊下を経て、ここから根津嘉一郎が増築した和洋折衷の近代建築ゾーンに。まず洋館「玉姫」「玉渓」。玉姫はサンルームのステンドグラスの天井、そしてカラフルなタイル敷が圧巻。この洋空間と和風庭園の組み合わせ…!

一見“洋館”のようなのだけど、玉姫の主室は折上格天井(和風)あり、家具や暖炉はヨーロッパ風…と和洋折衷。隣り合う玉渓も洋風の山荘が基調だけれど、どこか和の感じがする。ここにも素敵なステンドグラスが。

ここから旅館時代の客室(現在は文豪関連の展示室)を挟んで、再び根津別邸時代の洋館「金剛」へ。こちらは「玉渓」と雰囲気に似たヨーロッパの山荘風の建築。ここでも豪華な暖炉。
それと隣接するのがやはりここでもステンドグラスが素敵…な「ローマ風浴室」。その唯一無二のデザインの浴室は映画のロケ地にもなったとか。あと写真は載せてないけど、旅館「起雲閣」時代の浴槽もこれまた深い浴槽がレトロで良い。

最後に、各洋館と庭園を挟んで向かいにあるのが和館「孔雀」。現在は独立した離れのような形になっているけれど、時代的には「麒麟・大鳳」とともに大正時代に建てられたもの。孔雀はここまで見た各部屋と比べるとシンプルな和館といった趣き…。そのほか旅館時代に増築された「音楽サロン(旧・宴会場)」など、おおよそ10棟で起雲閣の建築は構成されます。一番新しいのは平成年代の貸出ギャラリー。

そして起雲閣の庭園は前述の通り根津嘉一郎の別邸時代、大正末期〜昭和初期に作庭されました。熱海の緩やかな斜面の地形を生かした約1,000坪の池泉回遊式庭園で、主屋(和館・洋館)の手前には芝生と園路が広がり、中央部を川が流れ、その水はやがて池泉へと流れ込みます。

阪急創業者・小林一三などと共に近代の有力な茶人/数寄者でもあった根津嘉一郎自ら指示することもあったそうで、流れの始点の石組の中にある約20トンの大石は根津がこだわり10人以上の庭師が2ヶ月以上をかけて運んだもので“根津の大石”と名付けられています。
庭園の各所からは周囲の山々とマッチした景観も楽しめる。…もしかしたら根津別荘当時の和館の2階からは(正面に見える旧大浴場やビル・マンションもなく)熱海の海も眺められたのかもなぁ。

初めて訪れた頃は「日本庭園だ〜芝生〜★」ぐらいに思っていたけれど。近いところでは七代目小川治兵衛『三養荘庭園』、同じく小川治兵衛の『慶雲館庭園』、東京の『大隈庭園』等と似た雰囲気の、当時の流行した作風の庭園だったと感じられます。洋館やステンドグラス目当てに訪れる観光客・建築ファンにも気に入ってもらいたい庭園!

(2014年2月、2016年9月、2022年訪問。以下の情報は訪問時の情報です。最新の情報は各種公式サイトをご確認ください。)

アクセス・住所 / Locations

JR東海道新幹線 熱海駅より徒歩20分
JR伊東線 来宮駅より徒歩12分
JR熱海駅より路線バス「起雲閣」バス停下車すぐ

〒413-0022 静岡県熱海市昭和町4-2 MAP

投稿者プロフィール

イトウマサトシ
イトウマサトシ
Instagram約9万フォロワーの日本庭園メディア『おにわさん』中の人。これまで足を運んで紹介した庭園の数は1,900以上。執筆・お仕事のご依頼も受け付けています!ご連絡はSNSのDMよりお願いいたします。
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